楽々政治学のススメ
小難しいばかりが政治学じゃない!
2007年、五月書房、296頁 「知の喜び」は、楽しむことから始める! |
目次
プロローグ 「政治」とはなにか―子育ての現場から
第1話 日本のクワガタが絶滅する日―「規制緩和」を問い直す
第2話 なぜ金メダルにジーンとくるのか―オリンピックに「国民」を感じるわけ
第3話 当ってなんぼ―「ただの人」にはなりたくない!
第4話 「天下り」という人事慣行―定年まで勤められないキャリア官僚たち
第5話 アメリカ映画から「赤狩り」時代を考える―「自由の国」の思想弾圧
第6話 「社会主義国家」とはなんだったのか―「半国家」が強大化するメカニズム
書評 #6-1:『新潟日報』2007年5月6日読書欄「県人出版物」
書評 #6-2:[mixi]かまいち(2007年4月18-19日)
[mixi]かまいち書評.pdf
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書評 #6-3:評者・田中信一郎「泥臭い現実を素材に『政治』を解明」
『もうひとつの世界へ』第10号(2007年8月)
実在する保守系政治家について、かつて私の上司であった中村敦夫参議院議員(当時)から聞いた話が、今でも忘れられない。ここでは仮にA代議士とでもしておこう。
ある日、A代議士は、後援会役員の母親の葬儀に参列した。その役員とは面識があったが、母親には一度も会ったことがなかった。
A代議士は、葬儀会場に秘書の運転する車で乗りつけた。当然、黒い礼服に、黒いネクタイという服装だ。
会場ではすでに焼香が始まっていた。次々と焼香を終えた人々が、喪主に挨拶して席に戻る。やがて、A代議士の順番が来た。
そのときだ。突然、A代議士は、棺にしがみつき、大声で叫び始めた。「オッカア、オッカア!」目からは涙があふれ、半狂乱のようになっていた。しばらくして顔を上げ、喪主に挨拶をした。顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
喪主である後援会役員は、A代議士の見せた行動に感極まっていた。
A代議士は、所用があるからとその足で葬儀会場を離れ、待たせていた車の後部座席に乗り込んだ。そして、車が走り始めてから、運転席の秘書に話しかけた。「オイ、あんなもんで良かったか?(笑)」
この話が本当かどうか、私は知らない。だが、保守勢力が戦後日本で一貫して政権を担当していた要因の一つを、端的に示す話だと思う。
私が従来の「政治学の教科書」で不満なことは、こうした泥臭い現実について触れられていないことだ。あたかも、日本の政治が適切、あるいは予定調和的に動いているような印象を与える「教科書」が多い。それでは、日本政治を正しく理解することはできない。
その点、本書は、政治に対する素朴な疑問、あるいは日常に潜む「政治」の場面を切り取り、そこから理論や思想に展開していく。
たとえば、福田赳夫と中曽根康弘の間で支持者を奪い合った「上州戦争」の話が、本書では紹介される。それも「福田食堂」は「カキフライ」、「中曽根レストラン」は「五目ごはん」といった具合に、選挙事務所が有権者に提供した「ごちそう」のメニューだ。
これらの「ごちそう」代金は、誰が支払っているのか。その金は、何かの見返りではないか。そもそも、見返りを期待しないで、資金を提供してくれる人がいるのか。
本書の優れた点は、こうした様々な疑問を読者に呼び起こさせ、解説するところにある。つまり、政治学の「初学者」に疑問を抱かせ、お堅い「政治学の教科書」に橋渡ししていく。
それを可能としているのが『知られざる官庁新・内閣法制局』や『日本司法の逆説』(いずれも五月書房)などで発揮された、具体から本質へ鋭く迫っていく著者独特の考察と思考である。
また本書は、「下世話」なエピソードがいい意味で散りばめられており、「政治学を学ぶ気のない人」にとって、もっとも読みやすい「政治学の教科書」にもなっている。
政治学の初学者だけでなく、「教科書」に挫折した人にもお勧めしたい一冊だ。
田中信一郎(明治大学政治経済学部専任助手)
書評 #6-4:大久保健晴『明治大学広報』第588号(2007年10月1日)
(2011年3月) 441-445頁
本書は、国家論の観点から現代日本の政治構造に鋭いメスを入れてきた気鋭の政治学者による、政治学入門の書である。
「明治大学の卒業生で、オリンピック男子マラソンで金メダルをとった『日本人』って誰?」「なぜ今、日本のクワガタが危ないの?」「どうしてJR大船渡線の路線図はいびつな形なの?」
「小難しいばかりが政治学じゃない!」という副題のとおり、身近な疑問やエピソードを題材にした、平易なエッセー風の文章を読み進めていくなかで、読者は知らず知らずのうちに政治学の基礎知識を身につけていく。
しかし、独自の収集資料と深遠な国家論に裏付けられた本書はまた、単なる入門書の枠に止まらない広がりをも有している。そしてその反時代的ともいえる批判精神によって貫かれた現代国家分析の極北に、政治という名の「麻酔」に抗するための「政治的距離感」と「判断力」を我々はどのように身につけることができるかという普遍的な思想課題が立ち現れる。
政治学を初めて学ぶ方はもとより、政治学の「今」を知りたい人にお薦めしたい好著である。
大久保健晴・政治経済学部講師
書評 #6-5:ゼミOBによる感想文(2012.3.18)
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