官僚技官
霞が関の隠れたパワー

官僚技官 霞が関の隠れたパワー

2002年、五月書房、248頁

知られざる官僚、「技官」の実態をあますところなく紹介する

技官の技官による技官のための公共事業、そのカラクリを斬る!
特殊法人の改革など、ようやく具体的な姿が見えつつある構造改革。しかし公益の名のもとに強大な利権を握る官僚たちの反撃はこれからなのだ! そして「公益」を演出するキーマンこそ本書で取り上げる官僚技官たちなのである。学校建設に絶大な力を持つ文部技官、土建国家を田中角栄とともに作り上げた旧建設技官など、知られざる官僚、「技官」の実態をあますところなく紹介し、これからの政治改革の要諦を指し示す。

目次

第1章 公共事業はだれのためか
1 公共事業の現状と課題
2 公共事業複合体

第2章 「技官」とよばれる官僚たち
1 技官とはいかなる官僚か
2 タコツボ技官王国
3 ガラスの天井

第3章 田中角栄「解放理論」がもたらしたもの
1 カクエイが仕掛けた「ダイナマイト」
2 「鉄の三角同盟」と公共事業族議員
3 「鉄の三角同盟」間の「さまざまな便宜」

第4章 国土交通技官
1 国土交通技官の「前身」
2 旧建設省「技官王国」の利権維持システム
3 国土交通省誕生

第5章 農林水産技官
1 公共事業官庁としての農水省
2 農業土木版「鉄の三角同盟」
3 農水省旧構造改善局のパワー

第6章 知られざる技官王国~文部科学省、厚生労働省に見る~
1 文部科学省大臣官房文教施設部
2 厚生労働省の医系技官・薬系技官

第7章 公共選択論の視点からみる
1 公共選択論の基本的な考え方
2 なぜレント・シーキングはつぶせないか

むすびにかえて

書評 #2-1:深津真澄「無駄な公共事業はなぜ続く?陰の政府「技官王国」こそ元凶」 『週刊金曜日』2002年3月15日号

書評 #2-2   元C型肝炎患者のホームページ「近頃の読書」欄http://homepage1.nifty.com/kanen/doksyo179.htm

書評 #2-3:評者・井田正道『明治大学広報』2002年4月15日号「本棚」欄

井田正道 書評・西川伸一『官僚技官』(五月書房、2 0 0 2 年)
* 『明治大学広報』2 0 0 2 年4月1 5 日号「本棚」欄
本書は著者の『知られざる官庁・内閣法制局』(五月書房)に次ぐ官僚制研究の第二弾である。官僚というと、一般に事務方のイメージが強く、技官を連想することは少ない。ところが、国家1種試験で採用される者のうち、技官は事務官のおよそ1・5倍にものぼっている。省庁の中でも技官の数がとりわけ多いのが農林水産省と国土交通省であり、両省で採用されている「土木技官」は「技官の中の技官」ともいわれている。著者はとりわけ技官と公共事業の関
係に注目する。事務官はゼネラリストであるのに対し、技官はスペシャリストであり、換言すればつぶしがきかない。各省の技官は他者の干渉を決して許さない「独立王国」を形成し、いわば「専門家支配」を確立しているという。また、技官は組織の既得権益が奪われそうになると体を張った抵抗を見せ、これが無駄な公共事業の一因となっていると論じている。最近よく使われる「抵抗勢力」という言葉が連想される。著者は官僚制のなかでも国民からみえにくい
内閣法制局や技官に焦点を当て、一般向けの書を著した。行政国家といわれるこんにちのわが国においては、国民からは中央省庁のベールに包まれた部分が多く、昨年来の外務省に対する国民の強い憤りをみると、行政不信が政治不信をも上回っているのではないかとさえ感じさせる。他方で行政の情報公開が一つの潮流であるが、本書を読んで研究者も行政脳実態を情報公開する役割を担っていることを認識させられた。

書評 #2-4:評者・外池力『QUEST』第19号(2002年5月)

外池力「『ムダの制度化』構造に鋭いメス
~書評・西川伸一『官僚技官』(五月書房、2 0 0 2 年) 」
* 『QUEST』第19号( 2 0 0 2 年5月)
 政治の不祥事が露見すると、氷山の一角なのではないかという感じを誰もが持つ。そして案の定、連続して事件が起こる。庶民感情から言えば、政治(家)は汚いものだ、なんでそんなに欲が強いのかね、あるところにはあるもんだ…というようなため息ですましてきたのかもしれない。しかし最近は、これはもっと構造的なものではないか、構造を解明し、構造を変えなければだめなんだ、という認識がかなり共有されてきたように思える。その変化の理由は、出口の見えない平成不況であり、その根源にあるとされる巨額の財政赤字である。これまでも汚職があれば「この税金ドロボー」と罵倒された。これに「日本を破産させるつもりか」という文句が加わるといったぐあいである。
 自分の属する組織を構造的に分析し、見直すというのは、そう簡単にできるものではない。ましてや国家や政治のことに関しては、よくわからないままですませてきた面もある。政治は汚く、わからないと。これはある面では政治研究者の責任でもあった。欧米の政治を理念型として日本の政治を批判するパターンはさておき、政治学で使われる概念や方法の多くが欧米直輸入であったことは否めない。著者も指摘しているとおり、日本政治の「かなめ」である「政治家=官庁=業界団体」の「鉄の三角同盟」は、これまで日本で刊行されてきた政治学辞典では、日本の現実にそってはほとんど説明されていなかったのである。もちろん、このような事象が研究されてこなかったわけではない。ジャーナリズムの真摯な追及や特集、研究者の地道な努力が積み重ねられてきた。しかし、誰にでも知られていて、誰もが納得してしまうこのような癒着を常識として片づけ、他人事のように眺めてきた習性が、「破産」という現実にようやく目を覚まさせられたということになる。
 2年前に『知られざる官庁内閣法制局』(五月書房刊)で、われわれに常識として刷り込まれた「官僚」像に揺さぶりをかけた著者が、今回取り組んだのは、<技官>である。<技官>とは、公務員試験で「技術系試験区分」で採用された、技術系の官僚のことを指す。1996 年度から2000 年度のまでの五年間にⅠ種試験で採用された国家公務員のうち、約六割の1561 人が技官であり、農林水産省(採用数671 名のうち610 名)と国土交通省(採用数598 名のうち434名)で、その3分の2を採用している。「技術者がこれだけ多く「官」になっている国は珍しい。イギリスではほとんどゼロであり、地方や民間に委ねている。日本の状況は発展途上国型といってよかろう」(48 ページ)と著者は指摘する。
 われわれが「政治家=官庁=業界団体」の癒着というと、まず旧大蔵省や旧通産省の事務系官僚のことを頭に浮かべてしまうことが多いが、著者は、日本を「破産」させんとする公共事業を熱心に推進している技官の「独立王国」に次々とメスを入れるのである。たとえば、薬害エイズ事件で製薬会社との癒着が明るみに出た厚生労働省の医系技官・薬系技官、「過剰な」車検をつかさどってきた旧運輸省自動車交通局技術安全部、国立大学の施設整備を一手にとりおこなう文部科学省大臣官房文教施設部などその実態を分析していく。しかし何といっても、国道、河川、ダムなどの工事事務所のネットワークで、全国の公共事業を統括する国土交通技官と、土地改良事業からウルグアイ・ラウンド(コメ自由化)「対策」の「ハコモノ」づくりまでとりしきる農林水産技官については、その歴史から人事構成までが詳細に分析され、問題点が指摘されていく。
 技官は、その専門性をいかんなく発揮して、公共事業の政策立案者となり、発注者となり、公共事業の「内容」と「価格」を実質的に決定してしまうだけでなく、受注者側(ゼネコン)にも天下っていく。ここに再選のための集票を業界に依存する政治家が加わり、あらゆる「腐敗」の温床となるというわけだ。たとえ「腐敗」がなかったとしても、その公共事業がムダなものであったら、それは技官と建設業者の「仕事」を作るためのものだとされても仕方あるまい。ところが、公共事業がムダという場合の基準はけっこう難しい。この難しさにつけこまれているというべきか。人口の爆発という言葉に躍らされた植民地獲得から杉の木花粉にいたるまで長期的な展望がことごとく外れた「愚挙」が累々と続くのが人間の世界といえるのかもしれない。しかし、その「愚挙」はどこかでチェックされなければならなかったのだ。著者が指摘するように、公共事業の長期計画は、よくても閣議決定のみで決まってしまい、それに基づいて、技官を中心にフル回転してしまう個々の事業は、民主主義に基づく監視からはきわめて遠い領域にあり、軌道修正も困難で、まさに「ムダの制度化」となっている。この構造をいかにすべきか。
 著者の鋭い語り口と、本書に載せられた多くのデータが語る事実は、この問いを読者全員への課題として突きつけているといえよう。

書評 #2-5:評者・真渕勝『朝日新聞』2002年11月10日書評欄「ブックラック」

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