鑑賞映画リスト(362件)

#362 2019.10.27 スティング 1973 シアタス調布   朝服用した薬のせいで、前半部分の半分くらいは寝てしまってもったいないことをした。ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードら名優たちがスリル満点のストーリー展開を文句なしに支える。舞台は1936年のシカゴで、詐欺師たちの抗争が描かれる。移動の列車中での大金を賭けてのポーカー。イカサマ対イカサマのシーンには引き込まれた。当時の競馬中継は電信で行われていて、その時差を利用したイカサマが可能だった。同時中継ではないためだ。先んじて電話でレースを知ったボスが大金を賭ける。出走。まもなく仲間があわてふためいて賭場に入ってきて、あれは複勝式の結果で賭けた馬は2着だと告げる。ボスは返金を求めるがとりあわれるはずはない。さらにそこにFBIが踏み込んできて、あっと言わせるラストシーンになる。Stingとは「とどめの一撃」。これをくらわせたい輩がいるんだけどなあ、とエンドロールをみながら思った。
#361 2019.10.11 時計じかけのオレンジ 1971 シアタス調布  

院生か助手のころ、おもしろいと友人から言われていた作品を旧作上映でようやく観る。最初の40分くらいは不良若者グループが暴力放蕩の限りを尽くすシーンの連続で不快な気分にさせられる。ところが、そのリーダーのアレックスが殺人罪で逮捕され、刑務所暮らしをするシーンから俄然おもしろくなる。アレックスは12年の刑期だったが、ある実験の被験者になることを条件に刑期を大幅に短縮され釈放されるのだ。その実験とは「ルドヴィコ療法」とよばれるもので、残虐な映像をまばたきを不可能にして2週間観させ続け、暴力行為や性行為への拒否反応を脳に埋め込むものだった。
その治療効果を披露する日。ステージにアレックスが上げられる。そこに青年が登場しアレックスを殴打し押し倒して自分の靴の裏をなめろと要求する。アレックスはあらがえずに素直になめるのだった。次にパンツしか着けていない女性が現れてアレックスを挑発する。アレックスは彼女の乳房に両手を伸ばすのだが、どうしても触れることができない。時計じかけのように自分の意思を貫けない。ザミャーチンの逆ユートピア小説『われら』にある、人を「機械にも紛うもの」にするには、「ヴァロリ氏橋部分にあるみすぼらしい脳神経節」を焼灼すればできると報じる「国策新聞」の記述を思い出した(岩波文庫272頁)。同席していた内務大臣はこの治療法により暴力犯罪は根絶できると見学者に豪語する。
釈放されたアレックスはかつての仲間から仕返しをされ、瀕死の状態である家をノックする。そこはかつてアレックスが仲間と押し入り作家と妻に暴行を働いた家だった。それが原因で作家は車椅子生活に、妻は亡くなっていた。アレックスのことを思い出した作家は、手の込んだ復讐を企てる。現政権に批判的な作家はアレックスを自殺に追い込むことで、例の治療法の過ちを喧伝しようとしたのだ。 アレックスは窓から飛び降りるが一命は取り留める。自殺未遂事件で支持率を落とした政権党は、内相をアレックスが入院している病院にマスメディアともども送り込む。アレックスが「ルドヴィコ療法」から回復したことをアピールするためだった。アレックスとともに写真に収まる内相の満面の笑みが政治家らしくていい。両手をギプスで固められたアレックスが内相に食事をねだるため、何度も口をひな鳥のようにあけるのがおかしかった。添えられていた飲み物はもちろんオレンジジュースだ。

#360 2019.10.9 ホテル・ムンバイ 豪米印 2018 TOHOシネマズ日比谷  

2008年にインド・ムンバイにある5つ星ホテル「タージマハル・パレス・ホテル」で起きた無差別テロ事件に基づいた作品。イスラム原理主義に洗脳された少年たちが銃で武装しホテルの客たちを次々に殺害していく。彼らのイヤホンには指導者からの「やつらは人間ではない」などと鼓舞させる言葉が次々と届く。ホテルの従業員たちは自らの命をなげうって、外国人の富裕層がほとんどの客たちを救おうと勇気と知恵を振り絞る。その結果、犠牲者は客たちより従業員のほうがはるかに多かった。ムンバイの貧しく不潔な街中とホテル内のまばゆいばかりの豪華さが、絶望的な貧富の差の存在をみせつけてくる。犯行のさなか、ホテルの一室に入った少年たちは水洗トイレに歓声を上げる。水洗トイレすら知らない極貧の中で育ち過激思想になびいていったのだ。いまでも世界中でそれが繰り返されているかと思うと、やりきれない。
目を覆いたくような殺戮シーンの連続とスリリングな展開で笑う場面はほとんどない。だが、下品なロシア人客を演じているのが、「スターリンの葬送狂想曲」(#304)でジューコフ元帥を演じたジェイソン・アイザックスだったのには笑えた。

#359 2019.9.27 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェス 伊米 1968 新宿ピカデリー   #358と似たタイトル、というか1969年に日本初公開時に「ウエスタン」の邦題だったものを、イタリア語の原題をそのまま英訳して、カットなしのオリジナル版として劇場初公開された。もちろん、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の公開が意識されている。
アメリカの西部開拓時代が舞台となっている。大陸横断鉄道の敷設をめぐる利権争いでガンマンたちがかっこよく派手に撃ち合う。ヘンリー・フォンダが悪役フランクを演じる。最後は「ハモニカ」とあだ名される素性不明のガンマンとの決闘になる。フランクが撃たれて虫の息のときに、「ハモニカ」から過去の因縁を知らされる。少年時代に自分の両肩に兄の両足が乗っているシーンに切り替わる。兄の首にはロープがかけられ、自分が重みに耐えきれず倒れれば兄の首が絞まる。そこにフランクが現れて、兄のためにハモニカを吹いてやれと口に押しつけるのだった。やがて「ハモニカ」は崩れ落ちて兄は死ぬ。それ以来「ハモニカ」は兄の形見としてハモニカを吹き続けて、兄の仇を討つ機会を狙っていた。ついにフランクの口にハモニカを押しつけて、フランクは絶命する。
西部劇らしくみんな撃たれてきれいに死んでいくが、実際にははるかにむごたらしいはずだ。征服された先住民が白人のもとで下働きしているカットも忘れずに配されている。
ニューオーリンズから西部に嫁いできたジルの妖しい魅力とその登場時に流れる映画音楽が、殺伐とした撃ち合いをみせられてささくれ立った心を和ませてくれる。
#358 2019.9.8 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 2019 TOHOシネマズ府中   『パルプ・フィクション』(#332)の監督をつとめたクエンティン・タランティーノ監督の最新作。主演の二人はレオナルド・ディカプリオとブラッド・ビットという豪華な顔ぶれ。マニアには彼らの台詞の端々や一挙手一投足、さらにはかかるBGMなどそれぞれ含意があり、たまらない作品なのだろう。逆に言えば、客を選ぶ傑作なのだ。予備知識のない私にはなにがなんだかわからないうちにストーリーはめまぐるしく展開していく。『パルプ・フィクション』同様にだらだらしたシークエンスはなく、わからないなりに引き込まれる。そして、凄惨なラストシーンに至る。手に汗握るこのシーンで、映画の冒頭に登場したビットの飼い犬が度肝を抜く活躍をみせる。この伏線には完全に意表を突かれた。まさにみごとで『パターソン』(#271)を思い出した。無意味に犬を登場させていたわけではなかったのだ。ラスト後のエンドロールでディカプリオがたばこのコマーシャルを演じるシーンがある。これには大笑いした。しめ方として最高だぜ!
#357 2019.8.28 工作 黒金星と呼ばれた男 韓国 2018 シネマート新宿   時代は1990年代前半。北朝鮮による核開発疑惑の情報をつかむため、韓国の軍人パク・ソギョンが実業家に扮して、黒金星(ブラックヴィーナス)というコードネームでスパイ活動に従事する。実話をベースにしたフィクション。
パクは中国で北朝鮮の外交交渉の実力者に接近しその信頼を得る。北朝鮮での事業展開をめぐって、ついには北朝鮮に入国し金正日総書記との面会にこぎつける。このシーンのディテールが興味深かった。パクは面会前に血液検査を受けさせれ、さらには薬物を投与された状態で自分の素性を尋問される。スパイの正体を暴かれそうになるが、最後の質問をうまくかわして難を逃れる。そして目隠しをされて金正日との面会場所へと向かう。面会に際して金正日とは目を合わせず第2ボタンあたりをみて話すよう注意される。金正日来室直前にはそのテーブルが消毒され、うやうやしく高級ブランデーが運ばれる。金正日はそれをストレートで何杯も飲みながら、国の命運を左右する重要な交渉に臨むのだ。
さらに核開発関連施設のある寧辺周辺へも、パクは遺跡探査の名目で訪問することを許される。そこでパクがみたものは餓死者の死体の山とそこから物取りをするあさましい人々だった。映画の筋そっちのけで見入ってしまった。
大統領選で野党候補の金大中の優勢が伝えられると、それを阻止したい与党政治家が北朝鮮に武力攻撃するよう求める。そのミッションにパクは苦悩する。「敵を作ることが政治だ」との台詞が重く響く。
外交の裏面はこうなっている。表向きでは厳しく対立しながら、水面下ではそれによって相互の利益を実現している。最も気の毒なのは、そのために使われるパクのような存在なのだろう。
#356 2019.8.24 シークレット・スーパースター インド 2017 ヒューマントラストシネマ渋谷   音楽の才能に恵まれたインシアには技師で厳格な父親と無学な母親がいた。インシアは父親の目を盗んで、母親が嫁入り道具の金のネックレスを売って買ってくれたパソコンで、ブルカを被ってギター弾き語りを自撮りしてYouTubeでデビューを果たす。YouTubeのアカウント名は「Secret Superstar」。この動画はやがてものすごいアクセス数に達して、新聞やテレビにまで取り上げられる。父親はこれに気づかず、インシアが塾で落第点を取った罰にギターの弦を切り、パソコンを捨てるよう命じる。インシアはパソコンを3階の自宅からたたき落とす。ネット上の動画もすべて削除する。
ところが、この動画に超有名人の音楽プロデューサーが注目して電話するようコメントを残していた。インシアがボーイフレンドのスマホからかけてワン切りすると、折り返しかかってきた。ムンバイのスタジオでレコーディングすることに。そして、CDは大ヒットする。
だがここでインシアはどん底にたたき落とされる。父がサウジに転勤になり家族でサウジに引っ越すことになったのだ。インシアは母に離婚してインドにとどまるよう説得するが、逆に母に身のほどを諭される。この2人の迫真のやりとりはすごい。夢をあきらめたインシアはムンバイからサウジ行きの便に家族と搭乗しようとする。その際に荷物が一つ多いから追加料金がかかると言われる。インシアのギターが余分だったのだ。父はそれを捨てるようインシアに命じる。自暴自棄となっていたインシアはゴミ箱にそれを突き刺す。そのときだ。それまで父親に暴力を振るわれても忍従してきた母親が猛然と抗議して、離婚の書類にサインして父親につきつける。そして空港を去って、コンサートホールに向かう。その年のベストシンガーを決める催しがあり、「シークレット・スーパースター」もノミネートされていたのだ。ここで女性ベストシンガーに「シークレット・スーパースター」が選ばれて、メデタシメデタシだろう、と高をくくっていた。だが、それでは歴代世界興収3位にはなっていないだろう。ここで大どんでん返しがあって、「シークレット・スーパースター」の本当の意味が明かされる!
母親役は『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(#334)でも母親役を演じたメヘル・ヴィジュ。音楽プロデューサー役は『ダンガル きっと、つよくなる』(#293)でスパルタ父親を演じたアーミル・カーン。対照的に軽薄でコミカルな役がはまっていた。エンドロールを油断して観ているとまた登場して大笑い。最後の最後まで楽しめた。
#355 2019.8.4 シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢 2018 新宿ピカデリー   妻と観に行く。夏休みの日曜日で劇場はほぼ満席だった。うだつの上がらない中年男性たちが男性シンクロナイズドスイミングに取り組み、世界選手権で金メダルをとって自信を取り戻すコメディ仕立てのサクセスストーリー。『フルモンティ』(#9)、『ウォーターボーイズ』(#200)、そして『おとなの事情』(#248)の各モチーフとシンクロさせながら観ていた。
主人公の男性は2年間うつ病のため定職に就けない。来宅した男性の実姉は義妹である男性の妻に同情の言葉をかけるが、それは彼女自身の優越感の暗示にすぎなかった。とうに夫妻は気づいていて彼女が帰ったあと嫌悪感を露わにする。シンクロチームの女性コーチは元シンクロ・デュエットの名選手。相方が事故で車椅子生活となり選手生命を絶たれる。酒に溺れて身を持ち崩す。ある日、二日酔いでプールサイドに現れたコーチを元相方が叱責して、自分が鬼コーチとなってチームを鍛え直す。中年男性たちは徐々にやる気になっていく。
とはいえ彼らときたら主人公以外にも、浮き具を片づけることだけが仕事のプール用務員、才能を過信して売れない曲ばかりをつくり続けトレーラーハウス暮らしのミュージシャン、妻に逃げられ認知症の母に手を焼く短気な男性、つぶれかかっているプール販売会社の社長など。だれ一人「まとも」な登場人物はいない。というか、年齢を重ねればだれでもなんらかの解のない重荷を背負わされるのだなと身につまされた。
#354 2019.7.17 ブルース・ブラザース 1980 シアタス調布   #353では健さんが網走刑務所から出所するシーンが最初の方に出てくる。この作品も主人公の出所シーンからはじまる。孤児院で育ったジェイクの出所を兄弟分で同じ孤児院育ちのエルウッドが、パトカーの払い下げの車で迎えいく。まずこれが笑える。二人はその車で出身の孤児院に施設長である「ペンギン」とあだ名されるシスターにあいさつにいく。ジェイクのあまりに下品な言葉遣いにシスターは激高して、二人を部屋からたたき出す。ジェイクが椅子に座りながら階段を転がり落ちるをシーンをみてすごいと思った。『黄金狂時代』でチャップリンが、『蒲田行進曲』で平田満が階段から後ろ向きに転がり落ちるが、あれ以上に危ない。
そこで二人はこの孤児院が5000ドルの固定資産税をあと数日で納められなければ、立ち退きを余儀なくされる危機にあることを知らされる。その後、いやいや参加したプロテスタント教会の礼拝で、二人は霊感に打たれる。どうみても運動神経が鈍そうなジェイクが、いきなり華麗なバク転を披露するシーンは痛快だ。二人は「神の任務」として5000ドルを用立てる行動を開始する。昔のバンド仲間を強引に集めて、コンサートで一攫千金を狙うのだ。
ある酒場で他のバンドが演じるはずのところを、偽って横取りして舞台に立つ。舞台と客席の間には金網が張られている。興奮した客がビンやジョッキを投げつけるので、演奏者を守るためだ。破片が飛び散る中、涼しい顔をしてバンドの演奏が続けられる。これにも笑わされたが、アメリカの酒場でのライブは本当にこんなに危ないのか。
とにかく、高級ホテル隣接の大きな劇場でのコンサートにこぎつけ、資金調達にめどがつく。ところが、エルウッドは数え切れないほどの交通違反歴があり、警察に追われていた。劇場から納税のため役所へと車を走らせるとパトカー群が追跡する。このカーチェイスのシークエンスもすごい。エルウッドの巧みな運転に次々とパトカーがおしゃかになる。迫力満点だが資源をムダにするな!と叫びたくなった。
お世辞にも上品とはいえないが上出来のコメディだった。
#353 2019.7.13 幸福の黄色いハンカチ 1977 DVD鑑賞 研究室にて 名作と評価の高い本作品をようやく観る。タイトルで結末がどうなるかは最初からわかりきっている。にもかかわらず、ラストに向かうにつれて涙が止まらなくなるもっていき方はさすが山田洋次だ。
不器用さってかっこいいんだと高倉健を観ながら思った。もとい。高倉健が演じるからかっこいいんだ。映画初出演の武田鉄矢の演技が最初は暑苦しく感じたが、ストーリー進行とともにそれを感じさせなくなる。寡黙な高倉とうまくマッチングされていくからだ。武田に声をかけられて、乱暴されかけながら北海道をいっしょにドライブする桃井かおりの台詞回しも冴えわたっている。薄幸な女性を演じる倍賞千恵子はもちろん最高だ。夕張でスーパーのレジ打ちの仕事をしている倍賞に、炭鉱夫の高倉が「あんた、奥さんですか」とようやく尋ねる。「いいえ」と言われて、店を出たときの高倉のうれしそうな表情がたまらない。網走刑務所を出所して、久々にビールを飲んだあとの感極まった演技もすごい。渥美清も警察署の係長役で出てくる。
『男はつらいよ 翔んでる寅次郎』(1979)でマドンナを演じる桃井は、ここでも北海道を車で旅して男性に乱暴されそうになる。『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』(1976)では、寅次郎は別所温泉で無銭飲食をやらかして警察のやっかいになるが、すっかり警察署の人気者になってしまう。この二つのシーンを思い出した。山田洋次のモチーフがつながっている。
高倉が倍賞との出会いや暮らしを追想する倒叙シーンを随所に挿入しながら、北海道の各所を高倉、武田、桃井の3人でめぐるロードムービー。そこには必ず人が、わけても子どもたちが大勢映し出される。人口減少の少子高齢社会の現在にはない光景だろう。
#352 2019.7.3 新聞記者 2019 池袋HUMAXシネマズ   東京新聞・望月衣塑子記者が書いた『新聞記者』(角川新書)をモチーフとしている。「東都新聞」のひたむきな女性記者・吉岡を好演するのは、韓国の至宝といわれるシム・ウンギョンである。なんでこんなに日本語がうまいの! 自分よりうまいとこの点に気になって仕方なかった。舞台あいさつをYouTubeでみたら、外国人とわかる日本語だったので少し安心した。
直球勝負の安倍政権批判の映画である。内閣情報調査室はオーウェルの『一九八四年』でいう真理省さながらの仕事をしている。真実をフェイクにし、フェイクを真実にする。その板挟みにあってある官僚が自殺する。その前にリーク情報を東都新聞にファクスしていた。加計学園の獣医学部新設問題の暗喩である。吉岡はその事実をつきとめ、1面にスクープ記事を放つ。協力者は内調に勤務しつつもその仕事に疑問をもっていた、外務省からの出向者の杉原(松坂桃李)である。杉原が上司の不在中に執務室に入って極秘資料を写メで収めるシーンは迫力満点だった。
政権を守るため汲々とする官僚たちの姿はまさに「官僚たちの冬」である。この映画も冬が季節になっている。もちろん、吉岡のやったことは職を賭した試みだった。露見して上司から追い詰められる。ラストシーン。国会付近の交差点で道路を隔てて赤信号で二人が向かい合う。吉岡が「ごめん」と口を動かしてスクリーンは真っ黒になる。
政権が不合理なことをやれと言う。「やりたくないことをやらざるを得ない」現代の官僚たちに同情するほかなかった。
#351 2019.6.30 ある町の高い煙突 2019 シアタス調布   日露戦争後、日立鉱山は銅需要の拡大により急成長する。一方でそれは甚大な煙害を周辺農村に及ぼすことになった。その寒村の一つに、一高から東京帝大への進学を目指していた大地主の跡取り息子がいた。惨状を知った彼はせっかく合格した一高への進学を断念して、煙害から村を守る委員長となって会社側と折衝する。会社側にも「煙害被害の救済で会社が潰れるならそれでかまわない」と言ってのける若き庶務課長がいた。当初、委員長はそれを甘言と取り合わなかったが、やがて両者は相互理解を深めていく。しかし、農商務省の御用学者が解決策として提唱した「ムカデ煙突」が、実は彼の村を犠牲にするものであることがわかり、両者は決裂する。
委員長は亜硫酸ガスを希釈できる100メートル以上の高煙突なら、被害は最小限に抑えられるかもしれないことを外国文献から学ぶ。とはいえ、それは被害を広範囲に拡散させるだけだとの研究もあった。彼は庶務課長とともに日立鉱山の経営者に実験するよう直訴する。この経営者は煙害被害に心を痛めていた良心的な経営者だった。曲折の末、150メートルにも及ぶ高煙突の建設が着手される。この経営者こそ、のちに「鉱山王」の異名を取る久原房之助だった。高煙突は成功して、煙害は劇的に改善される。
やや美談めくが、委員長は「冷静に、合理的に」をスローガンに会社側と粘り強く交渉して、いたずらに対立せず所期の目標を達成した。これを労使協調路線の「堕落」と笑えようか。「反対」「粉砕」と叫ぶだけでは、溜飲は下がるものの何も変わらないのではないか。
久原房之助役は吉川晃司だった。無理とは重々承知していますが、こんなかっこいいオジサンになりたい!
#350 2019.6.22 RBG 最強の85才 2018 新宿シネマカリテ   85歳にして現役のアメリカ連邦最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)をめぐるドキュメンタリー。1993年に女性で二人目の連邦最高裁判事に就任した。性差別をめぐる訴訟に次々と胸のすく判決を言い渡していく。人呼んで「notorious RBG」(悪評高いRBG)である。「男性判事は性差別などあると思っていない」というRBGの言葉が印象的だった。その生涯は『ビリーブ』(#341)でも映画化されている。ハーバード大学ロースクール時代、がんを患った夫の世話と幼い子どもの世話のため、睡眠時間は2時間ほどだったという。
上院でのRBG承認公聴会のシークエンスも興味深かった。連邦最高裁判事候補を大統領が指名し、上院の「助言と承認」を得られた場合、大統領はその候補者を連邦最高裁判事に指名する。「助言と承認」に先だって、上院司法委員会では承認公聴会が開かれ、議員が候補者に厳しい質問を浴びせる。民主党のクリントン大統領が指名したRBGは、共和党議員の妊娠人工中絶をめぐる質問に「自己決定権」を論拠に毅然と答える。RBGは政治的立場を超えた共感を集め、上院は96対3でRBGを承認する。
日本の最高裁判事の場合、新聞各紙の首相動静欄に最高裁長官が首相官邸を訪ねたと載るその日(つまり訪問の翌日)に閣議決定され、突如その氏名が明らかにされる。人選の経緯はまったくのブラックボックスで国民は蚊帳の外に置かれている。アメリカのやり方を見習ってほしい。
日本ではよく連邦最高裁長官と通称されるが、正確には連邦最高裁首席判事である。字幕ではそこがきちんと訳されていて感心した。
2019.6.23 鑑賞映画に1件を追加しました。
#349 2019.6.2 主戦場 2018 シアターイメージフォーラム(渋谷)   先週に続いて長女と観に行く。日系の青年アメリカ人監督が「慰安婦」問題について、歴史修正主義者たちの主張とそれに反論する研究者らの見解を取材して回って、両者の言い分を対照させた作品。その結果、歴史修正主義者の虚言とダブルスタンダードと不勉強が明らかにされる。こんな底の浅い人びとに振り回されてきたのかと失笑するほかなかった。しかも、彼らが安倍政権を支え、中学校の歴史教科書から「従軍慰安婦」の記述を削除させたのだ。
歴史修正主義者は流布されている数字を持ち出し、それはありえないと数字を値切って、最後にはそうした事実はなかったと否定してしまう。数字には説得力があるが、逆にそれが少しでも違っていると信憑性を大きくおとしめる。この怖さを実感した。「女たちの戦争と平和資料館」の渡辺美奈事務局長が、〈数字は確度の高いものを抑制的に使うようにしている〉旨の発言をしたシーンが印象深かった。
観客に若い人が多くてびっくりした。感心していると、長女から大学の授業で課題に出されたんじゃないのとツッコまれた。ちなみに、長女はそういう動機で行ったのではありません。
#348 2019.5.26 僕たちは希望という名の列車に乗った 2018 Bunkamuraル・シネマ   長女と観に行く。実話に基づく作品。1956年の東ドイツ。ベルリンの壁はまだなく、列車で東ベルリンから西ベルリンに入ることができた。東ベルリン郊外の名門高校に通う高校生二人が祖父の墓参りを口実に西ベルリンに行き、映画館に潜り込んでニュース映像をみる。ハンガリー事件を知って衝撃を受ける。クラスに戻って、犠牲者への2分間の黙祷を提案する。多数決でその提案が通って、始業時に実行する。教師が生徒を指名しても生徒はだれも答えない。憤った教師は校長に報告し、さらにはその地域の日本でいえば教育委員会のトップにまで情報が上げられる。一方、生徒たちはハンガリーの真実を知りたいと、ある生徒のおじで隠居している老人宅に行って、聴取が禁止されている西側のラジオ放送を聞く。反共プロパガンダの浸透を恐れる党は首謀者さがしに躍起になる。生徒たちはなかなか口を割らない。大臣までが心配して学校を訪れる。
そこである生徒を、父親がナチに寝返った過去を暴くと脅して、ようやく首謀者を突き止める。なんとその生徒の父親はその地域の議会の議長だった。党は父親を守るため生徒に、父親がナチだった生徒に濡れ衣を着せるよう勧める。その「芝居」が打たれるはずの日の深夜に、生徒はすべてを捨てる覚悟で西ベルリンに入る。その生徒がいない教室で、教育委員会のトップが西へ逃げた生徒が首謀者だったと説明する。すると生徒たちが次々に「私もです」「私も賛成しました」と名乗り出て、収拾がつかなくなる。ついに教室の閉鎖が告げられる。みな無事に卒業すれば国のエリートの座が約束されていたのに。そして彼ら19人が西ベルリン行きの列車に乗るところでエンドとなる。
こうして続々と優秀な頭脳が西ベルリンへ流出したために、東ドイツは壁建設という強硬手段を取らざるを得なくなった。わずか2分間生徒が沈黙しただけで、大臣までが腰を上げる。東ドイツがいかに体制維持に汲々とし、不安に駆られていたかが具体的にわかった。邦題はもちろん「欲望という名の電車」にちなんでいよう。だが、全く文脈が異なるので、原題どおり「沈黙する教室」(Das Schweigende Klassenzimmer)でよかったのではないか。
#347 2019.5.7 誰がために憲法はある 2018 ポレポレ東中野   10連休明けの平日の午前中なので、すいているだろうと思ったら、とんでもなかった。高齢者を中心に劇場は満席で補助椅子までが用意された。渡辺美佐子が日本国憲法を擬人化した「憲法くん」になって演じる一人芝居を最初と最後のシーンに配して、中盤は渡辺らベテラン女優が33年間も続いている原爆朗読劇の公演の様子を追いかけたもの。それが今年で最後になるのだという。〈左翼だと思われて〉とある女優が嘆く。原爆の悲惨さを伝える文化が「左翼」として排除されてしまう時代の空気がいまいましく思えた。その一人芝居で、渡辺が636字に及ぶ日本国憲法前文を暗唱するシーンは圧巻である。撮影当時の渡辺は85歳だった。戦争体験者の執念のなせる業だろう。
#346 2019.5.3 ねことじいちゃん 2018 高田世界館   帰省の折に観にいく。ねこが多く生息するある島で、一人暮らしのじいちゃん・大吉(立川志の輔)が飼いねこのたまに癒やされながら穏やかに暮らす物語。高齢化の進むこの島でダンスパーティーが催されるのがハイライトシーンとなっている。大吉の友人の漁師である巌(小林薫)と幼なじみのサチ(銀粉蝶)は、若い頃お互いに口に出さずとも相思相愛の仲だった。ところが、別々の家庭をもち子どもを育て上げた。「気がつくとおばあちゃんになっていた」とのサチの言葉に、人生の哀歓が詰まっている。再び島に戻り双方とも一人暮らしの身になった。サチが嫁ぐ前に、巌がダンスパーティーに連れてってやると言ってくれたのがとてもうれしかったと、サチは巌に「告白」する。半世紀以上経って、二人はようやくダンスを踊る。ついに約束を果たせた巌は、この上ない表情を浮かべる。ところが、その数日後にサチは他界してしまう。もうこの世に思い残すことはないかのように。
小林薫といえば、映画『深夜食堂』の店主役でおいしそうな和食の数々をふるまう。この映画では志の輔がわびしくなりがちな「弧食」を、たまに語りかけながら楽しそうに作る。それらを妻(田中裕子)が書き残したレシピノートに書きためていく。
大吉の長男(山中崇)が東京でいっしょに暮らそうと再三誘うが、結局大吉はこの島にとどまることを決める。85歳近い母親が新潟の実家で一人暮らしをしている。身につまされる思いがした。
#345 2019.4.28 記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜 2017 TOHOシネマズシャンテ   実話である。サブタイトルの「衝撃と畏怖」とはアメリカがイラクに仕掛けた侵略戦争の作戦名称。#343の『バイス』の映画評にも書いたが、イラク戦争に大義などなかった。「9.11」→アルカイダ→イラクと都合よく結びつけて、大量破壊兵器を見つけ出すとブッシュ(子)政権は戦争に突き進む。しかし、アルカイダとイラクの結びつきもイラクによる大量破壊兵器保有も、確たる証拠などそもそも存在しなかった。イラク戦争を正当化するために都合のいい「証拠」をつぎはぎしただけだった。「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」など大手紙もこれを鵜呑みにして、政府の方針に加担した。31紙の地方紙を傘下に収める中堅新聞社「ナイト・リッダー」の記者たちだけが、「大本営発表」に疑いを抱き政権内の内部告発者に接触を図る。そして真実を記事にする。しかし、傘下の新聞社がこれを掲載しない。好戦的な読者に受けないというのだ。「9.11」以降のアメリカの異様な世論にそれこそ「衝撃と畏怖」を抱いた。そして、日本や西欧各国も真相をおそらく察知しながら、言い出せずにこの戦争を支持したのだろう。「同盟国」を慮って。なんと麗しいこと!
当時の国務長官パウエルが人生の「汚点」と悔恨する、2003年2月の国連安保理での演説シーンが流される。イラクによる大量破壊兵器保有の「根拠」を訴えたものだ。その直前に、国連本部とその前で翻る各国の国旗が映し出される。あれ、ドイツ国旗の隣に旧東ドイツ国旗があるぞ。ここだけ東西ドイツ統一前の映像をコピペしたな。ニューヨークにあるんだから手抜きしないで撮影に行けよ〜と苦笑した。
#344 2019.4.18 Be With You 〜いま、会いにゆきます 韓国 2018 シネマート新宿   金曜日の午前中、劇場内は中高年の女性ばかり。女性専用車に乗ってしまったような錯覚に陥る。地上と天国の間には雲の国があって、雲に昇天した人が梅雨の季節には地上に戻れるおとぎ話がモチーフになっている。主人公と小学校に上がったばかりの男の子を残して、32歳で妻は病死する。ところが、梅雨入りすると記憶をすべて喪失した妻が家に戻ってくる。主人公から夫と自分のなれそめを聞き出し夫に惹かれ、息子もいとおしく感じるようになる。そして、梅雨が終わると同時に、妻は雲の国に帰っていく。「竹取物語かよ、ありえねぇ〜」と斜に構えて見続ける。ただ、最後の20分で、雲の国に戻った妻が高校生のころから書き残していた日記に拠って、彼女の恋心の種明かしが再現される。ここはおもしろかった。
韓国の小学校の運動会では、紅白帽ならぬ青白帽をかぶり、青勝て白勝てとなる。話には聞いていたが、映像(といってもフィクションの映画だが)でははじめてみた。
#343 2019.4.8 バイス 2018 TOHOシネマズ新宿   アメリカ副大統領はたいていお飾りに過ぎない。ところが、ブッシュ(子)政権の副大統領だったディック・チェイニーは違った。共和党の大統領候補となったブッシュが副大統領候補をチェイニーに打診した際、チェイニーは大統領権限のほとんどを自分が握ることを条件に示唆する。ブッシュはチェイニーの言っている事の重大さに気付かず、フライドチキンをほおばりながらこれを承諾する。このブッシュの間抜けぶりには、さもありなんと大笑いした。そして「9.11」。チェイニーはこれを奇貨として、アルカイダとのつながりが根拠薄弱のイラク・フセイン体制打倒をブッシュにけしかける。ブッシュは「前々からフセインの野郎はやっつけたかった」と子どものけんかのような理由でこの話に乗り、イラクへの侵略戦争を開始する。パウエル国務長官が「イラクは主権国家だ」と反対しても聞く耳をもたない。実は、チェイニーはイラクの石油利権を狙っていた。戦争のおかげで、チェイニーのもつ石油関連企業の株価は5倍に跳ね上がった。「死の商人」め。アメリカの政権周辺にはこんなwarmongerがうようよいるのだろう。彼らが情報を操作し、世論を誘導し、敵をつくって愛国心を煽って、「国難突破だ」と・・・。あれ? アメリカの話じゃなかったっけ。
もちろん、タイトルの"Vice"は"vice-president"と"vice(悪徳)"をかけている。うまい!
#343 2019.4.1 ブラック・クランズマン 2018 TOHOシネマズシャンテ   妻と観に行く。アメリカ南部で黒人排斥を目的として結成された秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)。1970年代半ばに、そこへコロラド州初の黒人警官となった主人公ロンが潜入調査を試みる。署から電話して入会を申し込む。もちろん本人が出向くわけにはいかない。同僚のユダヤ人フリップに生かせる。KKKはユダヤ人も排斥の対象にしている。フリップはユダヤ人であることをひた隠して、クランズマンになりきろうとユダヤ人を侮蔑する言葉を吐き続ける。ロンよりもフリップに感情移入してしまった。その甲斐あって、KKKによる黒人学生運動のリーダー格の女子学生の暗殺を未然に防ぐことができた。フリップがみたKKK内部の身の毛もよだつほどの偏見ぶり。『國民の創生』(1915)なる白人至上主義映画を集会でみて士気を高めたり、指導者が「America First」と連呼したり。トランプはこれをパクったのだ。ラストにはいまだに続く黒人への暴行シーンの数々が映し出される。そして逆さまにされたアメリカ国旗がスクリーンを埋めてエンドになる。
事実に基づくセミフィクションで、コメディタッチが逆に事態の深刻さを際立たせている。監督のスパイク・リーは1990年にアカデミー賞に作品がノミネートされて以来、ようやく本作品でオスカーを手にした。
#341 2019.3.28 ビリーブ 未来への大逆転 2018 TOHOシネマズ日比谷   妻に誘われて観に行く。舞台は1960年代後半から70年代前半のアメリカ。まだまだ性別役割分業意識が根強く残り、法律にもそれが反映されていた。たとえば、老親を介護する場合、女性なら税額控除が認められていたが、男性にはそれが適用されなかった。男は外で働き、女は家庭を守るとの法文化が根底にあった。成績優秀な女性がようやく女子学生の入学を認めたハーバード・ロースクールに入って弁護士を目指す。だがどこの法律事務所も雇ってくれず、やむなく大学教授の道へ進む。しかし、「ON THE BASIS OF SEX」(映画原題)の差別を裁判を通して法律から除去したいとの思いは断ち切れなかった。税法専門の弁護士である夫の紹介で、先の税額控除差別を知らされる。控訴審の3人の裁判官はいずれも保守的な思想の持ち主だった。審理は原告の敗色濃厚だったが、被告が用いた「radical social change」という言葉を逆手にとって劣勢を一挙に挽回する渾身の弁論を展開する。原告勝訴となり法律は変えられる。そして、彼女はやがて連邦最高裁判事になるのである。
社会を変えるには法律を変えなければならない。そして法律は裁判によって変え得るのだ。
#340 2019.3.26 スタンド・バイ・ミー 1986 DVD鑑賞 研究室にて 映画音楽はもちろん知っていたが、映画は観たことがなかった。習っているギターの課題曲がこれになったので、観ずには弾けないと思った。オレゴン州の田舎町に暮らす、日本でいえば小学校6年生にあたる4人の少年が、行方不明の少年の死体を捜しに徒歩で小旅行に出かける物語。これをみつけて地元の新聞の載ろうという腹づもりだった。ところが道中いろいろな邪魔が入る。同じく死体を捜している不良青年たちにからまれる。線路づたいを歩いて鉄橋にさしかかると、案の定、列車がきて危うく轢かれそうになる。浅い水たまりだと思って入っていくと深い沼で、そこから上がるとからだじゅうヒルだらけだった。目当ての死体はみつけたが、それを売名に用いる卑しさに気付いて死体に毛布を掛けて供養して家路に向かう。小旅行中、意見対立が絶えなかった4人はすっかり相手の気持ちを理解できる関係に成長していた。
不良青年たちが車に乗ってビールをラッパ飲みしながら、バットで家々の郵便受けを壊して回るシーンが印象深かった。というか、ワルはこうだよなあとむかつきながらも納得してしまった。そして、主人公のゴーディは成績優秀でスポーツ万能の夭逝した兄の重圧に常に苦しんでいた。兄の代わりに自分が死ねばよかったと親は思っていると。人を比較することの罪深さを肝に銘じた。
#339 2019.3.20 めんたいぴりり 2018 下高井戸シネマ   連ドラの「まんぷく」の明太子版。釜山の惣菜だった明太子を日本でも広めようと、引き揚げてきて夫婦が開いた博多の食料品店で、明太子づくりに悪戦苦闘する。「味の明太子ふくや」の創業者がモデルである。肩肘張らずに楽しむことができた。主人公役の博多華丸にはちょっと力が入りすぎの気がしたが、妻役の富田靖子との息の合ったかけあいがそれをカバーしていた。子役の英子ちゃん(豊嶋花)がとってもかわいくてうまい! 当時は西鉄ライオンズの黄金時代。「神様、仏様、稲尾様」の稲尾和久役が髙田延彦だったのには笑った。宮仕えなど楽なもの、創業者の偉大さに尊敬あるのみ。
#338 2019.3.18 金子文子と朴烈 韓国 2017 シアターイメージフォーラム(渋谷)   こんな史実があったのか。まさに不明を恥じた。関東大震災後の不穏な世情の目をそらすため、政府は朝鮮人に対する流言飛語をなすがままにして、彼らをスケープゴートにする。その直前に、アナキスト朴烈の詩に感激した金子文子は、朴烈に同棲を申し込み同志の共同生活がはじまる。大震災の直後、虐殺されるくらいなら逮捕されるほうがマシと、二人は獄につながれる。取り調べの中で、二人が属する「不逞社」は天皇と皇太子の暗殺を企図していたと「自白」し、二人は大逆罪で死刑判決を受ける。朴烈は「自白」と引き換えに、いまでいうツーショットを撮らせることを当局に認めさせる。ボーっとみると気付かないが、左手で文子の肩を抱く朴烈の手の先の位置が、体制を笑いのめすアナキストとしての意思をアピールしている。
当局の政治的思惑から二人は無期懲役に恩赦減刑される。だが、数年で文子は栃木刑務所で死去する。朴烈に面会にいった弁護士・布施辰治が「君は生きていけ」と文子の死を示唆する。そしてなんと、朴烈は22年以上も獄中で生き続け戦後釈放されるのだ。布施は1953年に死去するが、2004年に日本人としてはじめて大韓民国建国勲章を授けられる。
文子役を演じたチェ・ヒソの日本語のうまいこと。ちょっと不自然だなと感じたのは1か所だけだった。二人の大審院での公判で、傍聴席の最前列の外国人記者が写真撮影する場面がある。これも含めて司法考証は正確だろうかとやや気になった。
#337 2019.3.15 運び屋 2018 シアタス調布   88歳のクリント・イーストウッドが主演・監督した作品。家族をいっさい顧みず、仕事であるデイリリーの栽培で評価されることを生き甲斐にしてきたアールだった。ところが、インターネットの普及とともに事業に行き詰まり倒産するころには80を越えていた。仕事探しを相談した男に、自分は反則切符を切られたことがないと告げると、その男から「運転するだけ」の仕事を紹介される。最初は積み荷の中身を知らずに運転していた。だが、あまりに容易に大金が手に入るので検分してみると、それは大量のコカインだった。かまわずアールは運び屋を続けて、孫娘の結婚パーティーの費用を出してやる。それでも長女は、これまで家族の記念日をことごとく無視してきた自分と口をきいてくれない。
ボスが変わり、アールの仕事への締めつけが厳しくなった。寄り道は許されず、定刻どおりに運ばなければ命はないと。そして、12回目のRUN。運転中に孫娘から、妻が危篤状態なのですぐに帰宅するようにと電話が入る。アールは「スケジュールが厳しくて」と断ると孫娘になじられる。ついにアールは覚悟を決めて帰宅する。迎えた長女にようやく赦され妻を看取る。葬儀が済んで命からがら仕事に戻ったところで警察に捕まる。裁判では情状酌量を求める弁護士の発言を遮って、「有罪だ」と述べて潔く刑に服する。そして刑務所内でまたデイリリーの栽培に勤しむのだ。
莫大な額になる麻薬をトランクに入れているのに、アールはハイウェーを飄々と鼻歌を歌いながら運転する。このシーンには老いのすがすがしさを感じてしまった。家族の記念日は大事にしなければとわが身を振り返る。裁判のシーンで裁判長も弁護士も女性だった。アメリカではありふれた光景なのかもしれないが、日本ではまずお目にかかれない。
#336 2019.3.9 私は貝になりたい 1959 DVD鑑賞 ゼミ生有志と 周知の名作をゼミの学生たちと観る。高知で妻と理髪店を営んでいた理髪師・清水豊松(フランキー堺)の元に戦争末期に赤紙が舞い込み、応召し二等兵となる。撃墜された米軍機B29の瀕死の搭乗員に対して、「刺突」という初年兵訓練が施される。木にくくりつけられた米兵を銃剣で突きさすのだ。「たるんでる」として豊松がその実行者に指名される。戦後、豊松の理髪店に占領軍のMPが訪れ、豊松はBC級戦犯として逮捕される。裁判で豊松は上官の命令に従っただけだ、「二等兵は牛や馬と同じなんだ」と訴える。だが聞き入れられず、絞首刑を宣告され巣鴨プリズンに収容される。幸いにも執行されずに時は流れ、まもなく講和条約が結ばれる時期になった。高知から妻が面会にやって来て、新しい技術椅子のカタログをみせる。豊松はそれを房に持ちかえって、釈放後の商売に思いを馳せていた。そこに看守が現れ房を変われと命じる。豊松は釈放の前段階だと喜び勇む。ところがそれは執行のためだった。「どうしても生まれ変わらねばならないのなら、私は貝になりたい」と独白しながら13階段を昇る豊松。フランキー堺や妻役の新珠三千代、そして教誨師役の笠智衆がさすがの好演をみせる。
映画の中では、独房間を囚人たちが訪ねあったり、看守が火を点けてやって囚人たちが喫煙したりしていたが、これは事実なのだろうか。運命を知らない豊松が「よさこい節」を房内で歌うシーンに胸が痛んだ。
#335 2019.3.8 グリーンブック 2018 シアタス調布   妻と観に行く。2019年アカデミー賞作品賞に輝いた作品で、事実にインスパイアされた物語である。時代は1960年代。博士号をもつインテリ黒人天才ピアニストのドン・シャーリーが、品性下劣で無教養なイタリア系白人トニー・バレロンガを運転手に雇って、南部を演奏して回る長い旅に出る。そもそもトニーは黒人を差別していて、家の修理に来た黒人が使ったコップを捨ててしまう。ドンに雇われたのはカネのためだけだった。南部には理不尽な黒人差別が根強く残っていて、それを象徴するのが『グリーンブック』である。これは黒人が安心して泊まれるホテルのガイドブックなのだ。ドンは世界的ピアニストに対してあるまじき「接遇」を各所で受ける。洋品店ではスーツの試着を断られ、演奏会場でさえトイレは外にある掘っ立て小屋を使えと言われ、楽屋は物置でレストランでの食事は断られる。それでも事を荒立てずに筋を通すドンにトニーは感情移入し、心を変化させていく。映画はこれらを重々しさを感じさせずに、コメディタッチで描いていく。
スタインウェイしか弾かないと言っていたドンが、黒人がたむろする安っぽいパブで、ぼろいアップライトピアノを弾いて客たちを沸かせるシーンには心が弾んだ。長いドライブののちほうほうのていで、妻との約束どおりにクリスマスイブの夜にトニーは帰宅を果たす。すでにパーティは親戚たちで盛り上がっている。その一人が黒人を指す蔑称を口にすると、トニーが「その言葉は使うな」とたしなめる。ラストでトニーの妻がドンに告げるお礼の台詞がいい! どんな閉じ方になるのかと思っていたが、こうしたオチでしたか。
#334 2019.2.27 バジュランギおじさんと、小さな迷子 インド 2015 新宿シネマカリテ   パキスタン・カシミール地方に耳は聞こえるが発話ができない女の子ジャヒーターがいた。母親は周囲の薦めで国境を越えてインドのイスラム寺院に彼女を連れて願掛けの旅に出る。ところが、帰路に深夜の国境で列車が線路補修のため一時停止する。目を覚ましたジャヒーターは列車を降りて子羊と遊ぶ。その間に列車は再出発してパキスタン側に入ってしまった。迷子となったジャヒーターはインドの街をさまよう。そこでバジュランギおじさんに拾われる。面倒をみるうちにジャヒーターはパキスタン人であることがわかる。バジュランギおじさんはジャヒーターを親元に届けようと決意する。だが、印パ対立の激化(まさにいまもそうだが)でパキスタンに入るビザが取得できない。越境ブローカーを介して、バジュランギおじさんとジャヒーターはパキスタン入国を果たす。とはいえ、広大なパキスタンのどこなのか。しかも自分は不法入国者である。ついに警察に目を付けられ、インドのスパイだとして追われる。偶然さえないフリージャーナリストと知り合いになり、3人でパキスタン国内を逃げ回る。その彼が道中を映した動画にジャヒーターの母親が映っていたのだ。ようやくジャヒーターの住所が判明する。3人はバスでそこへ向かうが、途中警察の非常線が張られていてバジュランギおじさんは逮捕されてしまう。ジャヒーターは無事に親元に帰れたものの。だが、ジャーナリストがこの迷子の親探しの動画をネットにあげたことから、国内でバジュランギおじさんへの同情が一気に高まる。ジャーナリストはネットを通じて印パ両国民に、バジュランギおじさん帰国のためカシミールの印パ国境地点に集結するよう呼びかける。大勢の両国民が集まる中、バジュランギおじさんは国境警備隊が黙認する中、印パ国境の川を渡る。そのとき、「お・じ・さ・ん」と声が飛ぶ。もちろんジャヒーターの声だ。振り向いて、声を得たジャヒーターを川の上で抱き上げてエンドになる。印パ友好を讃えるかのように。159分の長尺物だがちっとも長いと感じなかった。思いっきり笑えて、思いっきり泣けた。ジャヒーターのかわいいこと。それとは対照的な印パ対立の根深さをつきつけられた。
#333 2019.2.18 洗骨 2018 シネマート新宿   沖縄県の離島・粟国島に残る洗骨という風習。死者は火葬にせず風葬(風化に委ねる)にする。そして、4年後その棺桶を開いて、骨を洗ってもう一度弔う。これだけ聞くとホラーじみた映画ではないかと思ってしまう。ところがコメディなのだ。この落差がおかしい。4年経っても奥田瑛二扮するだめおやじ(信綱)は妻の死を受け入れられず酒に溺れる。優秀な長男・剛(筒井道隆)は東京で妻子と幸せに暮らしているはずが、この間に離婚してしまう。妹の長女・優子(水崎綾女)は未婚なのだが身重の体で洗骨に現れる。そこで存在感を発揮するのが、信綱の姉・しっかり者の信子(大島蓉子)である。ばらばらになってしまった弟一家を辣腕を振るって立て直す。私の亡くなった伯母もこんなタイプだったなと笑いながら観ていた。こうして洗骨の日を迎える。海辺の墓から出されて棺桶の蓋を開ける。しゃれこうべには息をのむ。骨を洗うことで家族の気持ちは一つになる。これだけで終わりとしないのが映画の「お約束」だ。この場面で優子が産気づくのである。ここでも信子がてきぱきと指示を出して、信綱が赤子をおそるおそる取り上げる。スリル満点のシーン! こうして命がつながっていく。二枚目の奥田瑛二がさえない役どころを巧みに演じていた。
#332 2019.2.9 パルプ・フィクション 1994 シアタス調布   昨年末にDVDで観たこの作品(#323)が旧作上映として劇場公開されたので観に行く。女優の岡田茉莉子が作品は映画館で観てほしい、「テレビではなく、大きなスクリーンでの演技なので」と言っている。これを実践する。迫力が全く違う。DVDでは吹き替えで観たが、こちらは字幕。俳優の肉声を聞くと臨場感が全く違う。邦訳担当は字幕の大ベテランの戸田奈津子。ラストでレストランを制圧したはずの女強盗が逆に追いつめられる。「どうだ?」と問われて「トイレに行きたいわ」と叫ぶ。女強盗は“I gotta go pee”と言っている。上品に訳したな。主役の一人であるヴィンセントがトイレの個室で本を読むシーンが二度出てくる。パルプ・フィクションを読んでいたんだと納得する。もっといろいろな伏線が張られているんだろうな。
#331 2019.1.31 チャンス 1979 シアタス調布   シューベルトの未完成交響曲がテレビから流れるシーンではじまる。重々しい映画なのだろうかと一瞬身構える。実は含蓄に富んだコメディだった。知的障害を抱えた、テレビだけが楽しみの庭師チャンスが、雇い主の死去で雇われ先を追われる。あてどもなく街をさまよっていると、リムジンに衝突されて腰にケガを負う。相手は大金持ちで、ホームドクターを抱えている。チャンスはその大邸宅で治療を受けることに。そのあるじは財界の大立者の老人だった。老人はチャンスも実業家だと勘違いして、チャンスが語る戯れ言を財界の文脈で勝手に解釈してしまい、チャンスに惚れ込む。大統領があるじを訪ねた際にもチャンスを同席させるほどに。そこでもチャンスは庭師としてのたわいもないことを大統領に話して、大統領は景気対策の文脈でそれを曲解する。そして、自身の演説にまでチャンスの名前を披露して引用するのだ。チャンスとは何者か。大統領はCIAとFBIを使って、大手紙は過去の新聞をマイクロフィルムで調べるが、一向にわからない。その間にチャンスは副大統領の代わりにテレビ出演したり、ソ連大使のレセプションに出席したりと、「スターダム」をのし上がっていく。雪だるまのように、会う人会う人がチャンスを別文脈で評価してどんどん大物にみられていく。本人はまったく自覚せず、相変わらずテレビばかりみているのだが。そのあるじが死去し、葬儀には大統領が参列して弔辞を読む。側近はいまの大統領に再選の芽はないから、次の大統領候補はチャンスだとささやきあう。一方、チャンスは葬儀の場から離れて、付近の湖の中へとずんずん入っていく。あれ、なんで沈んでいかないんだ? 調べたら、これは新約聖書に出て来るイエスの奇跡の水上歩行を模しているのだという。エンドロールとともにNGシーンが流れる。最後まで笑わせてくれる!
#330 2019.1.29 世界で一番ゴッホを描いた男 中蘭 2016 下高井戸シネマ   中国に複製画製作を産業とする街がある。主人公は家が貧しく中学校を1年で中退して、村を出てここで油絵職人になる。衣食住はすべて工房の中で、ゴッホの複製画を来る日も来る日も何万点も描く人生を送る。こんな職業もあったのかと驚かされる。一度ゴッホの作品の本物をみたいと主人公は思い立ち、お金がかかると反対する妻をどうにか説き伏せて、アムステルダムへ飛ぶ。土産物屋に自分が描いた複製画が、自分が売った値段の100倍で売られていた。いかに買いたたかれてきたかを知り、オランダ人の発注元に買い取り価格の値上げを申し出る。さて、ゴッホとの「対面」。筆使いも色使いも自分の描くものとは比べものにならないことに強い衝撃を受ける。さらに、自分はこのまま複製画の画工で終わっていいのかと自問自答する。帰国後、ついにオリジナルの製作に着手する。ゴッホも死後に評価された。自分の作品も50年後、100年後に評価されればいいのだと自分に言い聞かせて。主人公がゴッホの墓参りをするシーンで、「中国のたばこですよ」とたばこに火を付けて3本備える。主人公がアムスに立つ前に生まれ故郷に戻るためタクシーに乗るが、そのボンネットマスコットが毛沢東の胸像のミニチュアだった。いずれも中国らしさがにじみ出ていてニヤリとした。
#329 2019.1.24 映画刀剣乱舞 2019 TOHOシネマズ新宿   くだらない。時間のムダだった。Yahoo! 映画のユーザー評価の点数を盲信して観に行った自分がばかだった。それにしても、平日の午後というのに劇場はほぼ満席で、若い女性が多かったのには驚いた。
#328 2019.1.19 バハールの涙 仏ベルギー/ジョージア/スイス 2018 新宿ピカデリー   笑えるシーンは一つもない。登場人物もほとんど笑わない。主人公のバハールはクルド人女性で過激派組織ISと戦う女性部隊の隊長である。フランスに留学経験のあるエリート弁護士だったが、侵入してきたISによって夫を目の前で射殺される。長男も奪われてしまう。自らは性奴隷として売られる。同じく売られた妹は自害して果てる。バハールはISの兵士たちの10分の礼拝時間を利用して、その施設からの決死の脱出を図る。こうして彼女は子どもの奪還とISへの復讐のみを生き甲斐とする兵士になる。捕虜にしたIS兵士を先頭に地下道を通って子どもを探しに行くシーンには、アンジェイ・ワイダの『地下水道』を思い出した。彼女たちの戦いを、もう一人の主人公というべきフランス人女性の従軍記者マチルドがカメラに収めていく。彼女の夫も従軍記者で戦場で殉職し、マチルド自身も地雷の破片で左目がみえない。一人娘をフランスに残してきている。バハールの勇敢な指揮が功を奏して、ついに息子を取り戻してエンドとなる。とはいえ、観おえてなんの多幸感もわかない。やり場のない寂寥感のみが残った。
#327 2019.1.16 日の名残り 1993 シアタス調布   いい映画だった。1998年にイギリスに在外研究で滞在していたとき、チャッツワースという壮麗な貴族の屋敷を訪れた。そのときは観光気分だったので想像だにしなかったが、こうした館を切り盛りするにはホテルなみの人手が必要だ。ホテルでいえば総支配人に当たるのが執事である。第2次大戦中を時代背景に、ダーリントン卿の館を取り仕切る執事スティーブンスが本作の主人公である。彼の仕事ぶりは完璧主義そのもので、主人に新聞を出す前にアイロンを当ててまでするのだ。ダーリントン卿の厚い信頼を受け、本人もそれを誇りにしている。あるとき、ケイトンという若い女性がダーリントンホールのハウスキーパーとして働きたいと申し出てくる。履歴書に申し分なく、スティーブンスは採用する。彼女の働きぶりも見事で、スティーブンスは彼女に惹かれていくがそれはおくびにもださない。そんなスティーブンスにケイトンも心を寄せる。だが、一向に関心を示してくれないスティーブンスにしびれを切らして、別の男性に走る。悩むケイトンが自室で嗚咽していると、スティーブンスはノックもせずに彼女の部屋に入っていく。ついに!と邪なことを考えてしまったが、さにあらず。彼女の部下の甘い仕事ぶりを注意する言葉を告げるだけだった。ああじれったい。実はスティーブンスも動転していて、ワインセラーで年代物のワインボトルを割ってしまう。ケイトンはその屋敷を去り、結婚する。戦争が終わり20年が過ぎてダーリントン卿は亡くなり、新しい主人がアメリカからやってくる。人手が足らず、スティーブンスはケイトンに復職を頼むために会いに行く。彼女の退職以来の再会だった。往時を懐かしみ話ははずむが、ケイトンは孫の誕生を理由に断る。ラストシーン。ビリヤードルームに主人と二人でいたところ、鳩が部屋に舞い込む。主人がやっと捕まえて、窓から放してやる。それを老いたスティーブンスが見送る。自分はこの窓から放たれることはないのだという諦念をもって。ダーリントン卿は親ナチで、この屋敷を舞台に秘密外交が展開されているシーンなども興味深かった。
#326 2019.1.2 日日是好日 2018 高田世界館   2018年9月に亡くなった樹木希林の遺作。お茶の先生を演じる。ひょんな偶然で20歳の大学生・典子(黒木華)がいとこの美智子(多部未華子)とともに、その茶道教室に通うようになる。所作にこんなにも細々した決まりがあるのかと本人たちは目を丸くする(私もでした!)が、次第にその静謐な魅力に引き込まれていく。戌年で映画がはじまり、二回りして終わりも戌年だから、黒木は44歳までを演じたことになる。その間、就職の失敗、失恋、最愛の父(鶴見辰吾)の死など人生の荒波を、お茶を続けることを支えに乗り切っていく。その父と典子の弟以外、ほぼ女性しか登場しない。上品に仕上がっている映画だけに、典子と美智子がカラオケで羽目を外すシーンが際立つ。このシーンが好きだ。恋人に裏切られ、駅のホームで号泣する黒木の演技もすごい。ラスト近くの茶会のシーンで、黒木が長い髪をばっさり切って現れたのには驚いた。お茶がわかれば、この映画のすごさがもっとわかったのだろうが。そして、樹木希林に合掌。
#325 2018.12.30 家(うち)へ帰ろう スペイン/アルゼンチン 2017 川崎チネチッタ   妻と観に行く。ブエノスアイレスに住む88歳の元テーラーが、老人ホームに入居する前日に家族たちと記念写真を撮るシーンからはじまる。右足が不自由で医師からは切断手術が避けられないと告げられていた。だが彼はすべてをなげうってポーランドへ旅立つ。50年以上前の親友に彼が最後に仕立てたスーツを届けるために。実は彼はユダヤ人でナチスの強制収容所の生き残りだった。そこで足を悪くし、腕には囚人番号の烙印が残っていた。逃れてきた彼を助けてテーラーという職を身につけさせてくれたのが、その親友なのだった。道中彼は決してポーランドと口に出さず、メモして「ここに行きたい」と言う。空路マドリードに入って、鉄道でパリへ。そこで、ドイツを通過せずにポーランドにいく列車はないかと駅員に尋ねる。このときもドイツとは言わずにメモに書いて示す。もちろんそれは不可能で、ドイツ国内で乗り換えてポーランドを目指す。乗換駅でもドイツの地に足をつけたくないと、偶然乗り合わせた人類学者の女性の衣類を借りて、ホームに敷いて降り立つ。ポーランド行きの車内で倒れて意識不明に。気付くとポーランドの病院だった。担当の看護師にせがんで、親友と過ごしたウッチの住居に向かう。アポなど取っていない。50年も同じ住み続けている保証はなにもない。ドアをノックするが応答がない。看護師が近所の人に訊いて回るがだれも知らない。あきらめたところに、仕事に取りかかる高齢のテーラーがその住居の窓から見えた。親友だった。先方も彼をみつけて抱擁して言う。「家(うち)へ帰ろう」と。がんこジジイが旅で出会う人びとに少しずつ心を開いていく様子に、『幸せなひとりぼっち』(#231)を思い出しながら観ていた。長い旅路を93分に収めた。中身をぎゅっと圧縮したのもよかった。
#324 2018.12.28 リの恋人 1957 シアタス調布   銀幕に映し出されるオードリーを久しぶりに観たくなった。ミュージカル。最初の10分以上、オードリーが出てこなくてじりじりしたところに、思いもつかない現れ方でオードリーが登場する。これは見事で、その後の展開に心を膨らませた。しかし、あとのストーリーはそれほどでもなかった。確かに、オードリーの肉声の歌や相手役のフレッド・アステアの歌や踊りは見所ではある。アステアの「ボーリング」のシーンもいい。だが、『麗しのサブリナ』(1954)や『昼下がりの情事』(1957)と似たような結末になるのではと思って観ていると、「期待」どおりだった。一度観れば十分かなあ。バリー・パリス(永井淳一訳)のオードリーの伝記『オードリー・ヘップバーン』(集英社、1998)のカバーに描かれたオードリーの表情が、この映画に出てくる写真から取ったことがわかったのは収穫だった。
#323 2018.12.25 パルプ・フィクション 1994 DVD鑑賞 研究室にて パルプ・マガジンといえば低俗雑誌の意味である。なのでタイトルは低俗小説ということになる。観はじめるとそのとおりだった。ファミレスで男女がピストル片手に客たちの財布を巻き上げようとするシーンからはじまる。そこで一旦話は切れる。その後2人のギャングがくだらない会話をしながら、裏切った仲間を平然と撃ち殺す。話変わって、ボスの若いつれ合いの相手を頼まれた子分が、ヤクを吸引して瀕死状態になった彼女に手を焼く。ヤク仲間の家に担ぎ込んで心臓に太い注射針をぶっ刺して蘇生させる。このシーンには大笑いした。ボスから八百長を厳命された落ち目のボクサーがノミ行為でもうけようと裏切って、相手をリング上で死亡させてしまう。ボスに追われて飛び込んだ店がとんでもない店だったが、ボクサーの機転で難を逃れてボスに許される。話は遡って、仲間を射殺した2人のギャングが現場にいた少年を連れ出し、車の後部座席に乗せる。その1人が誤って少年の頭をピストルで撃ち抜いてしまう。死体の処理に困った2人は・・・とオムニバス形式で時間軸を無視してストーリーは進む。最後には冒頭のファミレスシーンに戻って、伏線がすべて回収される。この展開にはうなった。パルプに徹してメッセージ性を気持ちいいくらいに排除したことで、かえって完成度を高めている。もう一度観たくなる。全編を通じて、銃社会のむごさに得心させられた。これが裏テーマだったのか。
#322 2018.12.21 共犯者たち 韓国 2018 ポレポレ東中野   アメリカ映画『ニュースの真相』のラスト近くで、ロバート・レッドフォード扮するキャスターが「質問しなくなったらこの国は終わりだ」と語る(#217)。このドキュメンタリー映画でもまったく同じ台詞が出てきて慄然とする。韓国では2008年からの李明博政権になって、政権によるメディア支配が露骨になっていく。KBSやMBCのトップに政権の息のかかった人物を送り込んで、政権に批判的な番組を終了させ、政権に批判的なキャスターや記者たちの首を切っていく。それは朴槿恵政権でも同様だった。もちろん最大の犠牲者はこうした策動によって真実を知らされない韓国国民である。裁判によって彼らは名誉をようやく回復されていく。だが、放送局トップの任期はまだ残っているので過去の話ではすまされない。こんなに「わかりやすい」報道統制が現代韓国で行われていたことに驚いた。さらに、ひょっとして安倍政権は韓国の政権の「手口」に学んだのではないかさえ思ってしまった。
#321 2018.12.12 パッドマン 5億人の女性を救った男 インド 2018 TOHOシネマズ新宿   妻と観に行く。21世紀に入ってもインドの女性たちのうち、生理用品を使用している割合は10%そこそこだった。不潔な布でしのいでいたため、感染症から重篤な病にかかる女性もいた。その理由は製品の高さにあった。55ルピーもするそれは庶民にはとても手の届かない代物だった。愛妻家の男性がそれに憤って、綿を使った代用品を何度もつくるがうまくいかない。愛想を尽かした妻は実家に戻ってしまう。それでも男性はあきらめることなく、大学教授の家に住み込んで家事手伝いをしながら「研究」を続ける。そして、あるとき製品は綿ではなくセルロース(繊維素)でできていることを知る。さっそくメーカーに国際電話をかけ、偽りの資本金を言ってサンプルを送らせる。加えて、生理用品は4工程の単純な手間しかからないことを知る。わずか2ルピーでつくれるのだった。試作品を女性たちに使ってもらおうと声をかけるが、だれも見向きもしない。ところが、偶然その用意がなく困っているエリート女性に遭遇して、それを差し出したことから彼の運命は変わる。彼女の助言どおり、女性が訪問販売すれば売れるのだった。彼の発明した廉価な生理用品はインドの発明大会で最優秀の作品に輝き、彼は国連にも招待される。妻とはすっかり疎遠となり、彼を支えたエリート女性と「インディアン・ドリーム」を実現させるのかと思いきや、彼はインドに戻って妻と再会してエンドとなる。
実話を元にしたセミ・ノンフィクション。生理用品という正面から取りあげにくい題材を、明るくコミカルにみせた手腕に「最敬礼!」(エンドロールの最初の言葉)
#320 2018.12.5 人魚の眠る家 2018 新宿ピカデリー   最愛の娘がプールで溺死して脳死状態に陥る。家族は自宅に引き取り最新のテクノロジーで脳が筋肉に送る信号を人為的に作り出して、手足を動かして、成長を「喜ぶ」。日本では心臓死をもって人の死としている。例外は臓器移植のため脳死判定で脳死と診断された場合だ。従って、法律上は娘は生きている。母親(篠原涼子)は仕事を辞めて娘の世話にすべてを捧げる。一方、周囲は次第にそののめり込みように疑問を抱きはじめ、「喜ぶ」演技を強いられる。なにせ顔の筋肉まで動かしてプレゼントにほほえみを返すのだ。このシーンには心が凍り付いた。その息苦しさがやがて露見して母親の知るところとなる。逆上した母親が娘の心臓に包丁をつきつける。あわやというところで、父親(西島秀俊)が母親に手を挙げていさめるが、母親は聞く耳を持たない。いっしょにプールにいった姪が事故の真相を告白して、母親はようやく包丁を手放す。しばらくして娘の容態が急変し、脳死直後の状態に戻ってしまう。もう夫婦は延命を望まず、娘の臓器移植にサインする。「解」のない問題を正面から問いかけた重い映画だった。篠原涼子の迫真の演技もすごかったが、脳死した少女役はじめ子役たちの好演が輝いていた。
#319 1998.8.30 アメリカン・プレジデント 1995 テレビ鑑賞 シェフィールドの借家にて 日記をさかのぼってみていたら、在外研究時に観ていたことがわかった。その前に日本で観ていて、イギリスでもう一度観たのだろう。たぶんBBCの放送か。楽しいラブコメディだが、最高権力者の苦悩もリアルに描かれていた。軍首脳から「大統領、ご決断を」を迫られ、「attack(攻撃しろ)」と声を振り絞ったシーンがいまだに忘れられない。妻に先立たれ、ある偶然から一目惚れした恋人とソファに座って、テレビのチャンネルをリモコンで変え続ける。それは大統領にとっては重要であるはずのニュース番組をスキップして、フットボールのスコアを伝えるチャンネルを探すためだった。このシーンが好きだ。あと、身辺警護にあたる人びとは、大統領のことを「リバティ」と呼ぶのを知った。
#318 2018.11.23 まぼろしの市街戦 仏英 1966 新宿K’s シネマ   妻と観に行く。祝日に最終回上映が重なり、20人ほど立ち見が出る盛況ぶり。第1次大戦末期のフランスの寒村が舞台で、その村から敗走するドイツ軍が大型の時限爆弾を仕掛ける。起爆装置は村の広場のからくり時計である。この時計は毎晩深夜零時に騎士が出てきて棒で鐘をたたく。これで電気が通じて爆発するよう配線したのだった。イギリス軍の伝書鳩係だったプランピックは、フランス語ができるだけで、爆破を阻止する命令を受けてこの村に入る。住民たちはすでに逃げて、村はもぬけの殻だった。だが、精神病院から出て来た患者たちが思い思いの衣装をまとって、サーカス団に置き去りにされた動物たちとお祭り騒ぎをしている。プランピックは王様に祭り上げられ、コクリコという名の美しい少女を娶るよう勧められる。彼はその気になる一方で、任務は果たせない。ついに爆破3分前にはコクリコと死ぬ覚悟を固める。そこでの彼女の一言が、彼に起爆の仕組みを気付かせる。そして、間一髪で騎士の棒と鐘の間に自分の体を入れて、爆破を防ぐ。これでラストかと思ったらさにあらず。
入村してきたイギリス軍とドイツ軍がその広場で対峙して撃ち合って、双方ともに全滅する。フランピックは原隊復帰のあと別の戦線に投入される命令を受けるが、この村を通過中にこっそり隊から離脱する。そして、衣服を全て脱ぎ捨て一糸まとわぬ姿で精神病院の門をたたき、コクリコもいるここの患者となる。つまりはコメディ仕立ての反戦映画だったのだ。ただ、精神病患者を揶揄しているとも受け止められかねず、いまならとても撮れない作品だろう。全編を通じて「窓」がキーコンセプトになっている。
#317 2018.11.14 華氏119 2018 TOHOシネマズ新宿   マイケル・ムーアによるトランプ政権批判映画かと思って観に行ったが、すっかり「裏切られた」。もちろん底流にはトランプ批判があるのだが、オバマ前大統領をはじめ民主党のエスタブリッシュメントへの批判も「半端ない」。ムーアの故郷ミシガン州フリントでは、トランプと手法が瓜二つの強権的な知事が自らの営利目的で水道管を付け替えた。これにより水道水に鉛が混入して、子どもを中心に健康被害が続出する。当時はオバマ政権である。事態を重くみたオバマ大統領が現地を訪れる。大歓迎する住民に囲まれた集会で、オバマはわざと咳き込んで、水道水をコップに入れてもってこさせる。これを飲んでみせて事態の沈静化を図ろうとしたのだ。実際には唇を濡らしただけでコップを下げてしまう。このトリックが映像に撮られて、住民はオバマも味方ではないと激怒する。映画終盤では、時代も国も違うし、まさかトランプはヒトラーの再来ではあるまいとする楽観論に歴史学者たちが警鐘を鳴らす。そこにナチスドイツ時代に映像が重ねられる。あのときもいまも同じではないかとうんざりした気分にさせられる。そこへ「うんざりして、あきらめた時代に独裁者が現れる」とのムーアのコメントが絶妙に入る。もっと本気でトランプには警戒しなければならないと思い知らされた。それとごきげんでゴルフに興じる御仁も同様だが。
#316 2018.11.11 ボヘミアン・ラプソディ 英米 2018 TOHOシネマズ府中   イギリスのロックバンド・クイーンのヴォーカルであるフレディ・マーキュリーの生涯を描く。ロックはまったく聞かないので、「クイーン」も名前をうっすら覚えている程度だった。なので感情移入できず残念だった。ファンにはたまらない映画のようで評価も高い。スターダムにのし上がるに連れて態度は尊大になり、アルコールとドラッグに溺れる。「2枚目のアルバムが仕上がらない」と杯を重ねるが痛々しい。独立への誘いがありバンド仲間は離れていく。その頃にはフレディはエイズに感染していた。実はフレディはLGBTだった。再び仲間を集めて、アフリカ救済を目的とした20世紀最大のチャリティコンサート「ライヴ・エイド」の出演をもちかける。このときばかりは、遅刻常習犯のフレディだが定刻前に来て仲間を迎える。アルコールも飲まなかった。「気付くの、おせえよ」と言いたくなった。そして、ラストはロンドンのウェンブリー・スタジアムの7万人の前で、いや世界に衛星中継されているので15億人の前で最高のパフォーマンスを披露する圧巻のシーン。7万人の前で本当に唄っているようにみえる。フレディはその後45歳の若さで他界する。
#315 2018.11.3 さらば愛しき大地 日本 1982 DVD鑑賞 自宅にて 今年は明治150年だが、明治100年の頃の高度成長まっただ中での茨城県の鹿島開発を背景としている。主人公のダンプ運転手・幸雄(根津甚八)は農家の長男で、東京に出た次男に嫉妬しながらも、両親と妻、そして二人の男の子を支えていた。ところがある日、子どもたちが溺死してしまう。幸雄は荒れくれ覚せい剤に手を染め、また弟のかつての恋人の順子(秋吉久美子)と同棲をはじめる。幸雄を覚せい剤が原因の幻聴や被害妄想を襲い、ついには順子を刺殺する。その心象風景を風になびく草木が暗喩する。何度も挿入される登場人物たちの食事シーンがいずれももの悲しい。高度成長の裏面が示唆されているよう。DVDのパッケージ裏に掲載されている柳町光男監督インタビューで、柳町監督は「明治百年というのは、覚醒剤打ちながら日本人は頑張ってきたんじゃないか」と述べている。覚せい剤を打った幸雄が自身の血液を注射器に戻して、それをコップの水に入れるシーンがすごい。本物の血でないと水中でこうは沈まないのだという。根津の演技に息をのんだ。
#314 2018.11.1 止められるか、俺たちを 日本 2018 テアトル新宿   若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2007)をかつて観たとき、190分の長尺物にもかかわらず時の経つのを忘れた。今年の春ごろこの映画の予告編をみて、若松孝二という名前とあの『実録』を思い出し、ぜひ観なければと思った。まずタイトルがいい。破天荒に突っ走る若松と彼が率いる若松プロダクションの映画づくりを、ひょんな偶然から若松プロに入った女性助監督めぐみ(門倉麦)の目を通してみせる。時代は1970年前後で反体制の尖った怒りが時代の気分としてみなぎっていた。時代が若松を求めていたとも言える。しかし、めぐみはそれとうまくシンクロできず、妊娠が追い打ちをかけて、ついに自分で自分の決着をつける。めぐみを含めて登場人物全員がのべつ幕なしに煙草を吸っている。そういう時代だったのだ。レコードや食糧を「調達」と称して万引きするシーンがある。反体制をかざして正当化していたのか。この勘違いがいちばん引っかかった。
#313 2018.10.12 LBJ ケネディの意志を継いだ男 2016 シネマカリテ   妻と観に行く。ジョンソン大統領(LBJ)といえばJFK暗殺で棚ぼた的に大統領になり、ベトナム戦争を泥沼化させた張本人くらいのイメージしかなかった。本作はそれとは異なる彼の一面を描いている。長く民主党の上院院内総務を務め、議会の事情を知り抜いていた。金丸信を彷彿させる狸オヤジである。とはいえ議会人で終わる気はなく、1960年には民主党大統領候補の座をJFKと争う。それに敗れた彼をJFKは副大統領に起用する。その狙いはテキサス州出身の彼を通じて上院の南部選出議員を抑えることだった。JFKがLBJを待たせて、大統領執務室で幼い子どもたちと遊んでいる。ようやく彼を招き入れた際に「忙しくて」と言い訳したことに、JFKが彼をどう思っていたかがよく出ていた。
偶然にもそのテキサス州ダラスでJFKは暗殺され、同行していたLBJが大統領に昇格する。大統領就任演説では"Let us continue"と感動的に結んで、ケネディの意志を継いで公民権法を成立させる。反対する南部選出議員を懐柔するのには、議会人時代のスキルが遺憾なく発揮された。しかし表情はもはや品のないオヤジではなく、大統領然としたものに変わっていた。やはり地位は人をつくるのだろうか。
虚勢を張らず、家庭では妻に臆面もなく弱さをさらけ出す。LBJのかっこ悪さに人間的な魅力を感じた。
#312 2018.9.26 輝ける人生 2017 新宿武蔵野館   シニア世代への応援歌だ。主人公サンドラの35年連れ添った夫にナイト爵が授与される。自身は「Lady」という称号を名乗れる。その晴れやかな祝宴でサンドラは夫が浮気していたことを知ってしまう。堪らず家出したサンドラは、自由奔放に一人暮らしをしている妹ビフの家の厄介になる。ビフと喧嘩しながらも、サンドラはビフに誘われてダンス教室に通いはじめて自分を取り戻していく。ところで、マルクスは『資本論』の中で「ここがロドスだ、さあ跳んでみろ!」と書いている(『マルクス・エンゲルス全集』第23巻第1分冊、218頁)。これに想を得たかのように、ビフはサンドラに「人生には思い切って跳ばなければならない時がある」(台詞の記憶は不正確)と諭す。夫の謝罪を受け入れていったんは元の鞘に収まるサンドラだが、夫が主催したサンドラの誕生日パーティで、サンドラの不行状を責める夫に「自分はあなたが赦せないのではなくて、35年間自分を裏切り続けた自分が赦せない」と言い放って、サンドラは再び家を飛び出る。ビフの友人でサンドラが惹かれたチャーリーが自分のおんぼろ船でフランスへ向けて出航する日だったのだ。サンドラはタクシーを降りた後、靴まで脱ぎ捨て必死に追いかける。すでに川を下っていたチャーリーの船をみつけて、川岸から跳んだ空中姿勢でエンドになる。とても飛び移れる距離でないのがニクイ。思い立ったら結果を恐れず「跳べ!」とのメッセージに、もはやリッパな中高年になってしまった私の心は揺さぶられた。
#311 2018.9.19 響-HIBIKI- 日本 2018 シアタス調布   人気漫画の実写化。15歳の天才少女小説家・響が芥川賞と直木賞のダブル受賞するまでを描く。漫画ならいいのだろうが、映画となると「ありえねぇ〜」というシーンの連続にあきれた。校舎の屋上から仰向けに落下して、木のクッションがあったにせよ無傷でなにごともなかったかのように、すくっと起き上がる。初対面の大小説家にいきなり蹴りを入れる。ある雑誌の新人賞授賞式ではもう一人の受賞者にパイプ椅子で襲いかかる。立派な傷害罪だ。その他人間関係では無礼極まりなく不愉快だった。さらに、ラストでは踏切道にとどまって電車をぎりぎりで止める。天は二物を与えずというが、こんな天才などいまい。こんな映画がYahooの映画レビューでなぜ4点台なのだ。それに釣られて観に行った自分がばかだった。芥川賞ノミネート4回目で、響に賞をさらわれた売れない小説家を演じた小栗旬の抑えた好演にはジーンときたけど。
#310 2018.9.13 1987、ある闘いの真実 韓国 2017 シネマート新宿   全斗煥政権末期の1987年に、ソウル大学の学生が内務部治安本部対共捜査所(「対共」)による拷問のため死亡する。「対共」はそれを隠すためにすぐに火葬することを主張するが、日頃から「対共」の無法ぶりに不満をためこんでいたある検事がそれを許さない。死体は解剖されることに。執刀医は当局が発表した心臓発作ではなく、拷問である水責めの結果であると知るが公表はできない。新聞記者がそれを聞き出して大々的に報じる。全国で抗議デモが展開される。
光州事件を描いた『タクシー運転手』はコメディ仕立てで、凄惨なデモ弾圧シーンを「中和」させていた。一方、この映画ではそれがラブロマンスになっている。延世大学の学生運動のリーダーであるイ・ハニョル(イケメン!:カン・ドンウオン)に、ノンポリ女子学生のヨニ(かわいい!:キム・テリ)が惹かれていく。
「対共」のボスが脱北者だったり、刑務所の看守が政治犯の密通者だったり、迫真の水責めシーンがあったり、と見所満載の映画だった。
イ・ハニョルはデモ中に催涙弾に当たって重体となる。それを新聞で知ったヨニがデモの最前列まで走って行って、バスの屋根上に駆け上る。すぐにではなく、やや戸惑いがちに手を挙げて、デモ参加者を鼓舞するラストシーンがよかった。ちなみに、この映画は事実を基にしたフィクションでヨニは架空の存在。
#309 2018.9.4 判決、ふたつの希望 レバノン仏 2017 TOOシネマズシャンテ   妻と観に行く。レバノン内戦は1975年から1990年まで続いた。その痛手は依然として癒えていないことを、法廷ドラマにして訴えかける。
主人公のレバノン人トニーは右派キリスト教政党の熱烈な支持者だった。その信念から、難民キャンプに暮らすパレスチナ人ヤーセルに向かって思わず口に出した言葉がヤーセルを激高させる。そして腹部を殴られ肋骨2本を折る大けがを負う。トニーは謝罪を求めるが、ヤーセルはそれを拒む。ささいな諍いは裁判に持ちこまれ、1審は原告トニーの敗訴。控訴審は互いに有能な弁護士をつけて争う。その審理の中で、それぞれ二人は内戦時代に深い心の傷を負っていたことが、内戦の過酷な現実とともに明らかになっていく。裁判は雪だるま式に世間の注目を集めて国中を沸騰させ、ついには大統領までが和解を促す事態に発展する。両者は和解を拒否して、控訴審の判決に持ちこまれる。2対1でトニーの敗訴だった。
レバノンの法廷の様子がわかって興味深かった。日本の場合、かかわった裁判官個々の判断が明らかにされるのは最高裁だけだが、レバノンでは控訴審でも判決の中で言及される。硬くて重い映画なのだが、けっこうユーモラスなシーンもあって最後まで飽きさせない。深く対立していた二人が、最後には友情すら抱くまでになったことが示唆されてエンドとなる。いいシーンだった。
#308 2018.8.17 妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII 2018 下高井戸シネマ   山田洋次監督の「家族は」シリーズの3作目。今回は3世代同居家族の家事を切り盛りする夏川結衣演じる史枝が事実上の主人公。史枝が家事に疲れてうとうとしている間に、空き巣に入られて40万円以上の史枝のへそくりが盗まれてしまう。夫の幸之助(西村まさ彦)は激怒し、史枝に暴言を吐く。深く傷ついた史枝は実家に戻る。周囲が迎えに行けととりなしても、幸之助は意固地になるだけ。弟の庄太(妻夫木聡)が専業主婦のシャドウワークの苦労と意義を切々と幸之助に訴える。ついに幸之助は重い腰を上げる。
妻に「水くれ」と平然と命じるオヤジども(私も一度でいいから言ってみたい!)にぜひ観させたい。一件落着したあと、庄太とその妻・憲子(蒼井優)が幸之助宅から帰る道すがら、憲子から大切なことを打ち明けられる。それに応じた庄太のすばらしい笑顔でエンディングとなり、4作目への期待が膨らむ。とてもすがすがしい気分になって劇場を出た。
#307 2018.8.16 改訂版 無頼の女房(演劇) 2018 座高円寺   無頼派作家・坂口安吾とけなげなその妻をモデルとした作品。その作家は覚せい剤(ゼドリン)を飲み執筆し、眠れないので睡眠薬も服用する毎日で、なにかにつけては書斎のある2階から飛び降りる癖がある。喜劇なのだが最後にそれが仇になる。前から2列目の最高の席だったのだが、なぜか今ひとつ入り込めなかった。やはり映画の方が向いているのかな。
#306 2018.8.15 ミリオンダラー・ベイビー 2004 DVD鑑賞 自宅にて 評価の高い作品なのにもったいないみかたをしてしまった。外の風がうるさくて、とはいえ音量を上げるにも限度がある。集中力をもって観ることができなかった。『あしたのジョー』のクリント・イーストウッド版にして女性版を観るよう。ボクシングジムの経営者役のクリント・イーストウッドや女性ボクサーを演じたヒラリー・スワンクもさることながら、そのジムに住み込む元ボクサー役のモーガン・フリーマンがいい味を出していた。女性ボクサーのサクセスストーリーかと思いきや、もちろんそんな単純な話ではなかった。ラスベガスでのタイトルマッチで相手の反則パンチに生涯寝たきりになる致命傷を負う。さらに床ずれが悪化し、脚を切断する。彼女を救うどんなどんでん返しがあるのかと期待して観ていると、ラストはクリント・イーストウッドが彼女を安楽死させるのだった。映画館で観ていたら絶対泣けたのに後悔することしきり。
#305 2018.8.13 カメラを止めるな! 日本 2018 TOHOシネマズ日比谷   まさに映画の醍醐味を堪能した! 500人は優に入る劇場は満席だった。いやが上にも期待感が高まる中、開巻後40分弱は私が苦手なホラー映画をみせられる。そしてエンドロール。あれ?オムニバス映画なのか。だとしても、こんな低予算みえみえのホラーでなんで劇場が満席になるんだ、と頭のなかにクエスチョンマークが次々浮かぶ。
ところが、一瞬にして画面は過去に切り替わる。なぜこのホラー映画が作られたのか、製作の舞台裏が説明されていく。依頼者が監督に求めたのは、30分カット割りなしの映画を生放送でホラー専門チャンネルに流すというもの。つまりカメラを止めないのだ。確かにそうだったとさっき見たホラーを思い出す。集められた俳優たちは曲者ぞろいで、監督はまとめるのに四苦八苦する。そして迎えた放送当日。重要な役どころの二人の俳優が現場に来られなくなる。やむを得ず、監督と元女優のその妻が代役を務めることに。ついに放送開始。次々に想定外のことが発生して、何度もカメラを止める危機を迎える。その都度、ぎりぎりのところでクリアして、どうにかエンドロールまでこぎつける。手に汗握って、大笑いできる。そういえば、ホラー映画の部分でおかしな台詞回しに気付いたが、こういう事情だったのかと納得する。最後は、不仲だった監督とその娘の関係も修復されるというおまけまでつく。というか、これがメインテーマだったのだ。すっかりだまされたという快感を味わえるすごい映画だ。ホラーの恐怖とその背後で展開されていた喜劇のみごとなコントラスト! 
上映終了後、客たちが出口に向かいながら、口々に「おもしろかった」と言っていた。こんなのはじめてだ。そう口に出さずにはいられないのだ。
#304 2018.8.9 スターリンの葬送狂想曲 仏英ベルギー加 2017 渋谷シネクイント   妻と観に行く。1953年にスターリンが急死する。だれがその後継に就くか、ベリヤ、マレンコフ、ブルガーニン、フルシチョフ、モロトフさらには軍人のジューコフまで加わって、大国の首脳とは思えない児戯に等しい権力闘争を繰り広げる。「だれがあっちにつく、こっちにつく」とどの組織でも同じなのだとわかって、それはそれで興味深かった。ただ、全編使用言語が英語なのはまだ許すとして、出てくる俳優が全然本物と似ていない。スターリンには威厳がないし、フルシチョフはやせている。よかったのはベリヤくらいだ。身につけている衣装やクレムリン内の調度品も貧相にみえる。「ほとんどが事実」というのならもっと迫真性を出せなかったものか。
#303 2018.8.5 フジコ・ヘミングの時間 日本 2018 テアトル新宿   年齢非公開というが、80歳を過ぎている天才ピアニスト フジコ・ヘミングの日常とコンサートに密着したドキュメンタリー。フジコ・ヘミングの父はスウェーデン人、母は日本人でピアノの先生だった。フジコは幼いころから母のピアノレッスンを受けて成長する。将来を嘱望されるが、若い頃に中耳炎で右耳の聴力を失ったばかりか、その後は左耳の聴力も失う悲劇に見舞われる。治療により聴力は通常の40%まで回復する。なので、ピアノ教師として生計を立てるのが精一杯だった。ところが、1999年にNHKのテレビで紹介されたことをきっかけに、一気にブレークする。世界中をツアーして回る遅咲きの人気ピアニストに。南北アメリカ大陸を回って、次はアフリカでのツアーを予定している。ギターならもって歩けるがピアノはそうはいかない。現地で用意されたピアノを弾くしかない。チリやアルゼンチンで「このぼろピアノ」などとぼやくシーンがおかしかった。ラスト近くの「ラ・カンパネラ」は観せどころ、聴かせどころだ。
#302 2018.7.20 スウィンダラーズ 韓国 2017 シネマート新宿   詐欺師をだます詐欺師集団のプロの仕事ぶりをテンポ良くみせつける。というか、観る側を最後までだまし続けて、ラストちかくで大どんでん返しをやってのける。観ながらだいたいこうなるだろうなという筋の展開予測を、気持ちいいほどに裏切ってくれる。「だまされず」にもう1回観たくなる! ところで、なぜか予定上映時刻前に本編がはじまってしまい、劇場側が気付いて開巻数分して上映を中断し、本編を再度最初からかけるハプニングがあった。こんな経験ははじめてした。
#301 2018.7.4 レディ・バード 2017 シアタス調布   現代アメリカの青春映画なのになぜ「PG12」なのだろうといぶかりながら観はじめた。しばらくして、あられもない言葉遣いの続出に合点がいった。もうちょっと上品に仕上げてくれると、邪念なく映画に集中できたのに。単におじさんが「うぶ」なだけか。17歳の女子高生クリスティンが主人公。このファーストネームがいやで、みずから「レディ・バード」と名乗る。母親の過干渉にうんざりし、住んでいるサクラメントを早く出たくてしようがない。学園生活に奔放な恋に友人との確執にとストーリーは小気味よく展開していく。2002年が舞台で、時折テレビでイラク戦争の画面をみるレディ・バードのシーンにはっとさせられる。戦死者数を伝えるテレビとスナック菓子をかじっている彼女との懸隔に。レディ・バードは母親に内緒で出願したニューヨークの大学に補欠合格する。激怒した母親は彼女とろくに口をきかずに彼女を空港まで送る。実は母親は彼女への秘めた思いを書いては気に入らずに捨てていた。父親がそれを拾い集めて、こっそりレディ・バードのバッグにしのばせる。ニューヨークでそれを読んだレディ・バードは自らの誤解に気付いて、母親にクリスティンと名乗って電話する。留守電なので母親の反応がわからないのがにくい。あんなにサクラメントが嫌いなレディ・バードが、映画の後半で「Sacramento」とプリントされたTシャツを着ていたのには笑えた。
#300 2018.6.23 しあわせの絵の具 愛を描く人モード・ルイス カナダ/アイルランド 2016 函館市民映画館アイリス   重度のリュウマチで親族からのけ者扱いにされていたモードは、雑貨屋で「家政婦募集」の貼り紙をみて、それに飛び付く。町外れの男一人(エベレット)住まいの家に住み込みで働くが、使いものにならない。しばらくして、モードはその家で飼っていた鶏をつぶしてチキンスープをつくる。モードにずっときつく当たっていたエベレットは意外そうな顔で口をつけるが、その味に癒やされる。そして二人の間が徐々に密になっていく。モードは家にあったペンキで壁に様々な絵を描いていく。不思議にエベレットはそれをとがめない。あるときエベレットの商売相手の金持ち女性サンドラが家を訪ねる。エベレットは不在だった。モードが出ると、サンドラは家中に書かれたモードの絵を見て、瞬時にモードの才能を直感する。サンドラはモードの絵の上客になる。やがてモードは新聞やテレビにも取りあげられる有名画家へ。ニクソン副大統領からも注文が来る(ネット上の映画評では「ニクソン大統領」となっていますが、当時は副大統領です!)。逆にすでに結婚していた二人の夫婦仲は微妙になっていくが、エベレットは「おれはダメ亭主だ」とそれまでの強がりをついに詫びる。モードがサンドラに「私は絵筆を握っているときだけがしあわせなの」と胸の内を語るシーンもいい。すばらしい天分と運に恵まれた人はまさに「しあわせ」だ。とはいえ、それら二つがそろうことなど滅多にないのだろうなあ。
#299 2018.6.6 夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年 2017 渋谷UPLINK   日本の精神病学の創立者である呉秀三の自伝的ドキュメンタリー。彼はちょうど100年前に『精神病者私宅監置ノ実況及ビ統計的観察』を刊行した。この本は彼とその教え子たちが全国の精神病者の置かれた実態を報告し分析したものである。心に突きささるのは「私宅監置ノ実況」を撮影した写真の数々である。患者たちは「私宅監置」すなわち座敷牢に自宅監禁されるという非人間的状況に置かれていた。入院患者は手かせ、足かせで拘束されていた。これを呉は「我が国十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸の外に、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」と形容した。ヨーロッパ留学で開放的な治療現場を視察した呉にとって、日本の精神病者は病と非人間的扱いという二重の不幸を背負わされているというわけだ。タイトルの「夜明け前」が示唆的だ。あれから100年が経って、精神障害者に対する私たちの偏見や、患者を拘束してきた治療のあり方はどれほど改められたのか。
#298 2018.6.3 万引き家族 2018 TOHOシネマズ府中   2日間の先行上映を長女と観に行く。さすがパルムドール! 樹木希林はじめキャスティングがはまりすぎるくらいにばっちり。度肝を抜かれるシーンがあるわけでも、観たあと強い高揚感を覚えるわけでもない。しかし、随所随所に丁寧に伏線が張られていてすべてが穏やかに効いている。きわどいシーンはカメラワークでうまく「逃げて」いる。子役の二人もすばらしい。ラストは「りん」ちゃんが一人遊びをして、「ここから逃げたい」とばかりに外を眺めるシーン。強烈な余韻に浸りながらエンドロールをみていると、音楽は細野晴臣だった! ラスト近くで、安藤サクラ演じる「お母さん」が「りん」ちゃん「誘拐」を警察に訊問されて「子どもはお母さんといっしょにいるのが幸せでしょ」と問われて、すぐに答えない。髪をかきむしるなどして数分言葉を発しない。この演技はピカイチだと思った。決意したようにようやく「親がそう思っているだけだ」などと口を開く。リリー・フランキーがコロッケをカップラーメンの汁に浸して食べるシーンも秀逸だが、あれだけはやりたくないなあ。
#297 2018.5.18 マルクス・エンゲルス 仏独ベルギー 2017 岩波ホール   妻と観に行く。平日の午前中で、劇場は高齢者でいっぱい。われわれはyoungestではないかと妻が言う。確かに。若き日のマルクスがエンゲルスと出会い友情を育み、『共産党宣言』を共同執筆するまでを描く。マルクスについてはこんな尊大な奴、絶対に友だちになりたくないと正直思ってしまった。『共産党宣言』の出だしで有名な「幽霊」はもともとは「悪霊」だったことを知る。ラストで『共産党宣言』が続々と印刷されていくシーンには昔の血が騒いで、ちょっと「うっとり」した。岩波ホールはスクリーンの左右にある非常灯を消さない。あの緑色が気になって仕方なかった。他の劇場のように、消灯して映画に集中できるようにしてください!
#296 2018.5.5 花筐/HANAGATAMI 2017 高田世界館   帰省の折に長女と観に行く。大林宣彦監督が肺がんで余命宣告を受け、抗がん剤治療を続けながら撮った作品。3時間以上の長尺物。メッセージは「日本はこのままいくとまた戦争に突入するぞ」というシンプルなものなのだが、技巧に走りすぎて冗漫な印象を受けた。映写機の不具合があり上映開始後1時間くらいで休憩が入って、トイレに行けてよかった。最後の1時間くらいは早く終わらないかとまで思ってしまった。
#295 2018.4.29 タクシー運転手 韓国 2017 シネマート新宿  

掛け値なしに必見の映画だ。1980年の光州事件のさなか、ソウルのタクシー運転手が金欲しさに、東京から来たドイツ人記者を光州まで乗せる。軍が市民に容赦なく発砲する光景を記者は命がけでビデオ撮影し、同行する運転手もその凄惨さに度肝を抜かれる。通訳を買って出た光州の大学生も虐殺される。担ぎ込まれた病院で顔面血だらけの彼の死に顔を撮影しろと運転手は記者に促す。この記者の存在は当局の知るところとなり、非常線が張られる。記者と運転手は抜け道を通って光州からの脱出をはかるが、こんな道まで軍が塞いでいた。トランクの検査で決定的な証拠がみつかりもはやここまでかと観念した二人だったが、なぜかこの軍人は二人を通してやる。東京に戻った記者は、持ちかえったビデオを全世界に配信して、光州事件の真実が暴かれる。
ソウルから光州に向かうとき、記者は後部座席に座っているが、光州から逃げる際には記者は助手席に席を移している。二人の関係が運転手と客から、光州事件を告発する同志に変わったことを暗示する。金浦空港で別れるとき、運転手はうその電話番号を記者に渡した。その後、韓国は民主化を果たし、記者は運転手を探し続けるが果たせずに他界する。
1980年のシーンでは座席の横にシートベルトはみえるが、運転手は装着しない。ところが、2003年のシーンになると運転手はきちんとシートベルトを付けている。ディテールの正確な描写が興趣を添える。

#294 2018.4.27 獄友 2018 ポレポレ東中野  

冤罪で長く千葉刑務所に服役した4人の出所後の交流を描く。狭山事件の石川一雄氏、布川事件の桜井昌治氏と杉山卓男、そして足利事件の菅谷利和氏。29年の獄中生活を強いられた桜井氏が「おれ、刑務所に入ってよかった」と明るく言い放つシーンがすごい。ここまで赦せる心境にどうしたらなれるのか。石川氏も菅谷氏も明るい(杉山氏は2015年に死去)。石川氏は再審が認められるまでは両親の墓参りはしないと固く決めている。菅谷氏は逮捕される前は人見知りで暗かったと「白状」する。一方、袴田事件で48年ぶりに釈放された袴田巌氏も登場する。拘禁反応(精神障害)の袴田氏を目の当たりにし、国家犯罪の罪深さに強い憤りを覚えた。だれが責任を負うのだ。お姉さんいわく、袴田氏は死刑確定(1980年)後から変わっていったという。来る日も来る日も毎朝の執行に脅えて30年以上も過ごせば、心に変調を来さないほうがおかしい。
終了後に金聖雄監督の舞台あいさつがあり、不運と不幸は違うと言われたことが印象的だった。前者は抗いようがないが後者は自分の努力で回避できるのだ。

#293 2018.4.14 ダンガル きっと、つよくなる インド 2016 TOHOシネマズシャンテ   もう最高! 実話を元にした物語。インドきってのレスリング選手だった父が娘二人のレスリングの才能に気付いて、熱血指導して鍛え上げる。娘たちは男子に混じった大会で次々に優勝を重ねる。ついにナショナルチーム入りを果たすが、コーチの指導は父とは正反対だった。父の指導は古いと長女は反発するが、国際大会で一向に勝てない。コーチから「お前は国際大会には向いていない」とさえ言われる。長女はようやく父と和解する。インドで開催されたコモンウェルス大会で、コーチには面従腹背を貫き父の助言どおりに戦って、ついに金メダルを獲得する。その決勝を試合会場でみることを父はコーチに妨害され、会場内の別室に監禁される。インド国歌が流れて、父は娘の優勝を知る。「お前はおれの誇りだ」がエンディング。笑えるシーンと泣けるシーンが随所に出て来て、展開も小気味よくあっという間の140分間だった。実は父は「女は家事と育児で一生を終える」とつぶやく。娘たちをレスリング選手にしたのには、インド女性が置かれた差別的境遇への異議申し立ての意味も込められていた。スポ根娯楽映画には終わらない深いメッセージが、絶妙のスパイスになっている
#292 2018.4.10 デトロイト 2017 下高井戸シネマ   戦慄の映画だった。1967年のデトロイトでは黒人暴動が略奪を招き、鎮圧に当たった警察は神経過敏になっていた。その警戒のなか、あるモーテルから銃声が聞こえた。実はこれはおもちゃのピストルによるいたずらだった。そうとは知らぬ警察はこのモーテルに踏み込み、そこにいた若者たちに拷問まがいの詰問をして、銃のありかを吐かせようとする。その一人を別室に連れ込み、そこから銃声が聞こえる。吐かないとお前たちもこうなるとの見せしめだった。もちろん、実際に射殺したわけではなかった。ところが、これを「ゲーム」とは知らなかった一人の警官が本当に黒人を射殺してしまう。事の重大化を恐れた警官たちは若者たちに固く口止めして順次解放するが、その一人が口止めを拒否する。すると、「主犯」格の警官は一呼吸置いて容赦なく銃弾を浴びせる。事件は裁判にもちこまれた。しかし白人で占められた陪審は警官たちに無罪の評決を言い渡す。正義が実現されないアメリカ社会の恥部をまざまざと見せつけられた。そして、この構図はいまも変わっていない。
#291 2018.4.8 ペンタゴン・ペーパーズ 2017 新宿バルト9   地味なラストシーンに強い衝撃を受けた。そういうつながりだったのか。アメリカ国防総省の最高機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」は、ベトナム戦争をめぐっていかに政府が国民を騙していたかが赤裸々に記録されていた。『ワシントン・ポスト』の記者がこれを入手して記事にしようとする。しかし、政府に告訴され敗訴すれば廃刊に追い込まれるかもしれなかった。朝刊の締切り直前に社主(メリル・ストリープ)は記事化を決断する。深夜12時半についに輪転機のボタンが押される。暴露記事が1面トップを飾った『ワシントン・ポスト』が刷り上げられ、次々に配送されていく。このシーンには胸がすいた。訴訟にも勝利する。これに打撃を受けたニクソン政権は、1972年の大統領選挙の行方を憂慮するあまり、民主党本部のあるウォーターゲート・ビルに盗聴器をしかけようとするのだ。ウォーターゲート事件の伏線は『ワシントン・ポスト』の記事にあった。ラストシーンでそれがわかった!
#290 2018.4.3 ウィンストン・チャーチル 2017 TOHOシネマズ新宿   安倍首相が観たら喜びそうな映画だな(と思ったら、8日にやはりご覧になっていた!)。挙国一致内閣の首相に就いたチャーチルはヒトラーとの講和を進言する周囲を押し切り、ヒトラーと戦い抜く旨の歴史的な演説を議会下院で行う。地下鉄に乗って聞いた国民の声が強く後押しした。こうした英雄譚より興味深く観たのはチャーチルの飲酒癖。朝からスコッチを飲み、昼食にはシャンパンを欠かさなかった。これでよく合理的な決断ができたものだ。国王にまでたしなめられていた。
#289 2018.3.4 隠し剣鬼の爪 2004 DVD鑑賞 研究室にて 山田洋次監督の時代劇2作目。時代は幕末、東北地方の架空の藩が舞台。誇り高き下級武士・宗蔵(永瀬正敏)とその家に奉公に来ていたきえ(松たかこ)の関係を軸に物語は展開する。あるとき、その藩で謀反の策謀が発覚し、宗蔵の旧友の侍が捕まる。大目付に呼び出された宗蔵はリストをつきつけられ、この中にその侍と親しかった者はいないかと詰問される。まるでアメリカの非米活動委員会の聴聞会のようだ。宗蔵は「侍たるものそのような卑怯なまねはできない」と突っぱねる。その後、宗蔵にその侍を討つよう藩命が下る。宗蔵はきえに実家に帰るよう「命令」する。旧友と真剣を交え討ち取ったあと、宗蔵はそれを命じた家老によばれ、家老の卑しい行為を知らされる。侍として許せない宗蔵は、タイトルにある「隠し剣鬼の爪」によって復讐を果たす。その後、宗蔵はもう人殺しはいやだと侍をやめて蝦夷に旅立つ。その途中、きえの実家に立ち寄り、きえに求婚し蝦夷行きを懇請する。きえは「旦那様の命令なら仕方ありませんね」とかわいい笑みで返す。このラストシーンには涙があふれた。1作目の『たそがれ清兵衛』同様に、ろうそくの火にまでこだわった映画づくりはさすがだ。
#288 2018.2.10 おだやかな革命 2018 ポレポレ東中野   革命といえば一発逆転を連想する。しかし、その場合はオーウェルが描いた事態になる。一見形容矛盾だが「おだやかな革命」こそが「裏切られた革命」にならないことを担保するのだと再認識した。『地方消滅』という本が4年前に出されて話題をよんだ。しかし、この映画をみると小規模の地域だからこそオリジナリティが生まれることがよくわかる。スケールメリットの裏返しだ。大都市に対して人口1000人単位の寒村。原発に対して小水力発電や風力発電、大量生産大量消費に対して地産地消。しかも、この映画でいいのは、「これが正しい」と説教くさくなく描いている点だ。いくら「正しい」ことでも上から目線で押しつけられてしまうと、鼻白んでしまう。市井の人びとが自ら気付き、実行に乗り出してコミュニティを変えていく。「おだやかな革命」がいわば「永続革命」となって、イスクラ(火花)が炎になる。そんな期待を抱かせる、気持ちを明るくしてくれる映画だった。
#287 2018.2.5 THE PROMISE 君への誓い スペイン米 2018 シアタス調布   長女と観に行く。20世紀最初のジェノサイドは、オスマン帝国によるアルメニア人150万人の大虐殺だった。第1次世界大戦初期の出来事である。トルコ政府はいまもこの事実を認めていない。アルメニア青年のミカエルは医者をめざしてコンスタンチノープルの帝国医科大学に入学する。その資金は婚約した裕福な家の娘の持参金だった。ところが、ミカエルは下宿先の家庭教師で、アルメニア人の父をもつアナに惹かれてしまう。しかもアナにはクリスというアメリカ人ジャーナリストの恋人がいた。こうした複雑な男女関係とアルメニア人虐殺が同時進行でストーリーが紡がれていく。山岳地帯へとトルコ軍に追いつめられたミカエルが「復讐したい」とアナにいう。するとアナは「生き続けることが復讐なのよ」と返す。これが「君への誓い」となる。結局、ミカエルはトルコ軍とまみえても一発も撃てなかった。九死に一生を得てミカエルは生き延びて、アメリカで医師として成功を収める。しかしアナは…… フランス海軍が5000人ものアルメニア人を救ったことなど、蒙を啓くとはこのことだと合点した。
#286 2018.1.27 最強のふたり 2011 DVD鑑賞 研究室にて #280『パーフェクト・レボリューション』の舞台あいさつで、この映画の松本准平監督が『最強のふたり』はすごい映画だと言っていた。劇場に行く予定が腰が重くなって上映期間が過ぎてしまい、パソコンの小さな画面で観る羽目になった。『パーフェクト・レボリューション』は『最強のふたり』にインスパイアされていることがよくわかった。パラグライダーの事故で頸椎を損傷して、首から下の自由がきかない大富豪フィリップを破天荒な黒人青年ドリスが介護する。これだけでも「うそでしょ」と思うが、この映画は事実に基づいている。ドリスはフィリップにマリファナを吸わせたり、フィリップの高尚な会話を下品にさえぎったりとやりたい放題なのだが、馬が合うとはまさにこのこと。フィリップは杓子定規な介護士の介護にうんざりしていて、ドリスと次第に深く心を通わせていく。その過程でドリスも分別を悟って内面的な成長を遂げる。障害者介護という重いテーマを、まったく説教くさくなく押しつけがましくなく、笑いに包み込んだのは、まさに「すごい映画」。ドリスが描いた落書きのような絵をフィリップが友人の金持ちに、「まだ無名作家の作品だが必ず値が上がる」と吹き込んで、1万ユーロで買わせるシーンには爆笑した。ドリスが「おれの主義だ」というシーンが3回出てくるが、それぞれが可笑しい! 次に観る映画はスクリーンで観ます。「おれの主義」なんで。
#285 2018.1.14 麻雀放浪記 1984 DVD鑑賞 研究室にて 戦後直後の混乱の中、雀士として生計を立てる面々の生き様をモノクロ映像で、迫力満点に描く。麻雀を知らなくても十分に楽しめる。主人公「坊や哲」(真田広之)や「ドサ健」(鹿賀丈史)、「女衒の辰」(加藤健一)のかっこよさもさることながら、「出目徳」(高品格)の渋いみごとな脇役ぶりは必見だ。「出目徳」は麻雀で重要な二つのサイコロの目まで自在に出せる技をもつ。練達のバイニン(博徒)となると、ここまでできるんだと驚くばかり。その「出目徳」はヒロポン(覚せい剤)を打ちながら、徹マンで「坊や哲」「ドサ健」「女衒の辰」との最後の大勝負を打つ。その最中に心臓発作で死去する。残った3人は「出目徳」の死体を本人の自宅近くの土手から転がし落とす。そして死体が自宅前の水たまりに水しぶきもろともはまり込む。このシーンは凄い! 「ドサ健」が放つ名文句の数々も凄いのだが、とてもヤバくてここには書けない。
#284 2018.1.6 ナミヤ雑貨店の奇蹟 2017 下高井戸シネマ   強盗した若者3人組が空き家に逃げ込む。そこはかつて「ナミヤ雑貨店」という雑貨店で、近所の悩み相談も受けていた。閉店後にシャッターがしまる。すると悩みを抱えた人がそれを相談する手紙をシャッターの郵便受けに投函する。店の主が返事を書いて牛乳箱に入れておく。翌朝、相談した人がそれを受け取りに来るというしくみだ。店の主は30年以上前に亡くなっている。しかしその夜、次々と相談の手紙が郵便受けに落とされる。3人はおそるおそる手紙を開くと、どれも手紙には「1980年●月×日」という日付が記されていた(当時はいまほど西暦は使われていなかったから、どれも西暦で年数が記されているのはおかしいと思ったが)。なぜかシャッターを隔てて2012年と1980年がつながっていたのだ。3人は返事を書いて、牛乳箱に入れる。すると1980年の相談人たちがそれを読んでまた返事を郵便受けに落とす。この繰り返しで、3人の返事が相談人たちの人生を変え、実は3人の今に反映されていることに彼らは気付く。まさに「神のみえざる手」を感じて、彼らは心を入れ替える。ラストシーンで流れる山下達郎の「REBORN」がキマっている!
#283 2018.1.2 LION/ライオン 2016 高田世界館   インドで偶然迷子になり孤児になってしまった5歳の男の子サルーが、オーストラリアの夫妻の養子となって彼の地に渡る。養父母のもとで幸せに成長する。だが、その一方で自分のルーツを知りたいとの思いを募らせていく。幼いころの記憶に生きている実の母親は健在なのか。手がかりは住んでいた町の地名だが、それすら正確に覚えていない。あとはその町の駅に給水塔があったこと。広大なインドをGoogle Earthを使って、ほとんど憑かれたように捜しまくる。その過程で周囲と様々な衝突を起こした末にようやくつきとめる。サルーはインドに向かう。そして、運よく実母と25年ぶりの再会を果たす。そこで、サルーという名は自分の思い込みで、本当の名前は「ライオン」を意味する言葉だったことを知る。インドの貧しさとオーストラリアの豊かさのギャップに茫然自失するほかなかった。加えて、Google Earthの威力はすごい、というか怖い。フィクションなら「ありえねぇ〜」ですませられるが、これは実話だ。
#282 2017.12.26 ア・フュー・グッドメン 1992 DVD鑑賞 研究室にて 書評を依頼された本の中であらすじが紹介され絶賛されていた。アメリカ海軍の軍法会議が舞台。キューバのグアンタナモ米軍基地内で殺人事件が起こる。二人の容疑者は罪を認め、弁護人に任命された海軍法務官のキャフィ中尉(トム・クルーズ)は当初司法取引で安易に決着をつけようとする。ところが、調べていくうちに二人は上官の命令で「コードR」と通称されていた私的制裁を被害者に加えるために行動し、その結果の事故死だった疑いが濃くなる。しかし、大物大佐の上官は証拠を改ざんし、部下の証言もコントロールして命令を隠滅する。万事休す寸前のキャフィは身の破滅を覚悟の上、法廷に大佐を証人として呼び出す。キャフィが最後に賭けたのは、大佐の軍人としての鼻持ちならない誇りを刺激することだった。ついに大佐は「そうさ、コードRはおれが命じた」と挑発に乗って叫んでしまう。大逆転! 陪審員の評決は殺人については無罪としたが、倫理規定違反があったとして両名を不名誉除隊とした。命令が絶対の軍隊の不条理が見事に描かれる。本で結末を知っていたのをひどく後悔した。さもなければはるかに深い感動を味わえたのに。捜査に行き詰まってやけ酒に酔っ払うトム・クルーズの演技がすごかった。
#281 2017.12.25 Ryuichi Sakamoto
:CODA
米日 2017 角川シネマ新宿   坂本龍一の創作活動のドキュメンタリー。3.11の津波で被害を受けたピアノを坂本が弾く場面からはじまる。作曲現場の数々の修羅場をくぐり抜けてきた坂本が、それらを決して偉ぶることなく楽しいエピソードのように穏やかに話すのがいい。ある映画音楽の録音の際、オーケストラを前に監督からこの音楽、気に入らないから作り直せと言われ、オーケストラを待たせて30分で作曲した。「これがいい曲なんですよ」と微笑む。また、制約のある仕事も敢えて受けるのだという。その方が自分で気付かないものに出会えるからと。なるほど。仕事を選んではいけないと自戒する。ラストで、「きょうは寒いね」といって、手に息を吹きかけながらピアノを弾くシーンは笑えた。世界の坂本龍一が。暖房つけろよ〜。
#280 2017.12.9 パーフェクト・レボリューション 2017 渋谷アップリンク   障害者の性を真正面から、しかも深刻ぶらずにドタバタを交えて楽しく観せる。実話に基づく映画だ。生まれながらの脳性麻痺で四肢の自由がきかない中年おやじ「クマ」と、パーソナリティ障害をかかえる風俗嬢「ミツ」の恋物語。不完全な二人が結ばれればパーフェクト・レボリューションが達成できると二人は突き進む。しかし、たちまち困難にぶつかり「ミツ」はリストカットしたり、「クマ」と強引に入水心中を図ろうとしたりともがく。そのたびにすれすれで救われるが、「ミツ」は精神科医から接触禁止の処分を受ける。一方、「クマ」は慣れているとばかりに、次々に襲ってくる理不尽な仕打ちを、感情を露わにせず諦観する。そこでみせる微笑がすごい 。
「このあたりには車椅子で入れるラブホないぞ」という「クマ」の台詞にはっとする。パラリンピックで活躍する「健全」な障害者というイメージがある。だが、当然ながら彼らにも悶々たる性欲があり、日々それに懊悩している。本作品を観て、そのイメージがいかに「不健全」なものかを痛感させられた。
#279 2017.11.25 婚約者の友人 仏独 2016 シネスイッチ銀座   第1次大戦で婚約者フランツを戦死で失ったアンナのもとをフランス兵だったアドリアンが訪ねてくる。アドリアンはフランツのフランス留学時代の親友だと言って、アンナとフランツの両親を喜ばせる。しかし、それは嘘だった。実は前線で二人は鉢合わせして、先にアドリアンが発砲してフランツを死に至らしめたのだった。その謝罪が本当の目的だった。ドイツを発つ前日にアドリアンはアンナに真実を告白する。アンナは決して赦さない。しかしやがて、フランスにも自分と同じ境遇の人々にいることに気付いて徐々に心変わりしていく。ついには、アドリアンに赦しを伝えにフランスに向かう。ようやくアドリアンの屋敷を探し当てるが、そこにはアドリアンのフィアンセがいた。次第にアドリアンに惹かれてしまっていた自分に気付いたアンナは、アドリアンに別れを言う。去るアンナと見送るアドリアンの駅のホームでのキスシーンが切なく美しい。傷心のアンナ。ラストをどうやってまとめるのか心配してしまったが、うまい収め方にうなった。モノクロを基調として、要所要所だけカラーにする色使いも秀逸だった。
#278 2017.11.4 ラストレシピ 2017 シアタス調布   おもしろかった! 最初はばらばらにみえたファクターが最後には見事に集約される。豪華キャスト陣でそれだけが売りの映画かとみくびっていたが、とんでもない。小林薫主演の「深夜食堂」もそうだが、料理がテーマの映画は楽しい。天皇の料理番だった腕利きの料理人が満州国にVIP待遇で招聘され、天皇の満洲国訪問に備えて、その時のレシピ作りを任される。彼は妥協を許さない姿勢でレシピ作りに奮闘し、ついに完成させる。しかしそこには巨大な謀略が隠されていた。それに抗った料理人は消されてしまう。だが、回り回ってそのレシピは、妥協を許さないあまり店をつぶしてしまった孫のすぐ近くに保管されていた。孫はその料理人が祖父だとは知らずに、レシピを求めて日中を行き来して、ついにその真相を知るに至る。推理小説を読んでいくような展開だが、筋立てはわかりやすくてストレスを感じさせないのがいい。観た後の昼食をレトルトのパスタで済ませてしまった。なんたる懸隔か。
#277 2017.11.1 女神の見えざる手 2016 TOHOシネマズシャンテ   アメリカの豪腕ロビイストが銃規制法案を議会で可決させるために、手段を選ばず奔走する。これが彼女のアイデンティティなのだ。ドラッグで睡眠時間を削り、性欲もカネで処理する徹底ぶり。忠実なスタッフも平気で裏切る。仕返しに出た元スタッフによって、彼女は連邦議会の聴聞会に引っ張り出される。こんなヤな奴、議会侮辱罪で刑務所にぶちこんでしまえとムカムカしながらラストシーンを迎える。「ざまあみろ」の結末を期待していると、ここで大どんでん返しが起こる。まさに映画の醍醐味だ。すべては彼女の計算づくだったのだ。感情的にならずに細部をもっとよく観ておけばよかったと思ったが、もう後の祭り。開巻してまもなく彼女が「5年」と言ったあと、話題が変わってしまう。おや?と覚えていてよかった。最後の最後にその意味がわかる!
#276 2017.10.27 地の塩 山室軍平 2017 新宿武蔵野館   職場の近くに救世軍本営がある。あまり気に留めていなかったがこの映画をみて、それまでの無関心をおおいに反省した。日本人初の救世軍士官となった山室軍平の生涯を描く。どうしてここまで利他的、博愛的になれるのだろう。救世軍が救った困窮した人々の数知れない。宗教と信仰の力のすごさをまざまざと見せつけられた。年末の風物詩となっている救世軍の社会鍋に今年は協力したい!
#275 2017.10.10 ドリーム 2016 立川シネマ・ツー  

第二次大戦前、アメリカ南部に黒人の天才少女がいた。数学がずばぬけてできる。戦後になってアメリカ航空宇宙局(NASA)に勤務する。とはいえ、人種差別が根強く存在していた時代に、天才といえどもその壁はなかなか突破できない。部署も水飲み場もトイレも別々で、各所にうるさいくらいに「colored(非白人)」の表示があった。
ソ連がスプートニクの打ち上げに成功し、次にはガガーリンが「地球は青かった」と言って世界を驚愕させる。宇宙開発の遅れを取り戻すため、NASAではその黒人女性を白人だけが務める中枢の部署に引き上げる。彼女用に別の「colored」とシールが貼られたコーヒーポットが用意される。その棟には黒人用トイレがなかったため、彼女は用を足すため800m離れた別の棟に駆け込まなければならない。1日40分をロスする。それを知った彼女の上司(ケビン・コスナー)が、トイレに掲げられた「colored」の標識をたたき壊して、白人・黒人関係なく使えと部下に命じる。
アメリカ初の有人宇宙飛行計画はなかなか進まない。彼女は軍とNASAの合同会議で、帰還する宇宙船の着水位置を正確に算出して出席者を仰天させる。宇宙飛行士の信頼を得て、打ち上げ直前に「彼女が検算して正しければ飛ぼう」とまで言わせる。 主人公の同僚の2人の黒人女性も見えない壁を実力で突破して、「夢」を実現していく。終盤はそんな胸のすくシーンの連続。そして、ケビン・コスナーがむちゃくちゃかっこいい!

#274 2017.10.1 ーミの血 スウェーデン・ノルウェー・デンマーク 2016 新宿武蔵野館  

北欧というととかく理想視しがちだが、差別や偏見、そしてヘイトまがいの言動については、スウェーデンも例外ではない。スカンジナビア半島北部のラップランドに暮らす遊牧民のサーミ人に対して、そのような仕打ちをしてきた。サーミ人の子が通う寄宿学校ではサーミ語を使ってはならず、スウェーデン語が強制された。主人公の少女エレ・マリャは成績がよく、進学して教師になりたいから推薦状を書いてほしいと担任の教師に依頼する。だが、その教師は断る。理由は「研究」により、サーミ人は能力的に劣っていることが判明しているからだという。その学校に都市ウプスラから調査団がやってきて、エレをはじめ少女たちを丸裸にして身体測定し写真撮影をする。同じ人間とはみなしていないから、こうした破廉恥なことが平気でできるのだ。
エレはサーミ人であることを隠して参加したパーティーで、ウプスラから来た少年ニクラスと恋に落ちる。その彼を頼って、ウプスラに出て夢をかなえようとする。だが、そこで待ち構えていたのは寄宿学校にいたとき以上にむごい現実だった。
エレはラップランドには長く帰らなかったが、年老いて妹の訃報をきいてようやく戻る。宿泊したホテルでは観光に来たスウェーデン人たちが、サーミ人の悪口を相変わらず言い合っていた。
差別して溜飲を下げる人間の醜いさがとスウェーデンの美しい景色が、痛いほどの好対照をなしていた。スウェーデン式の学校での体罰も興味深かった。

#273 2017.9.6 水溜り 1961 神保町シアター  

今月この劇場で「女優 倍賞千恵子」と銘打って倍賞出演の映画が連日上映されている。この日の初回である「水溜り」上映のあと、本人による舞台挨拶があるというので観に行く。主演は岡田茉莉子。1961年といえば私の生まれた年だ。道路は舗装されておらず、あちこちに水溜りがあった。当時の庶民の貧しさ。そこから抜け出そうと茂子(岡田)は大企業の重役の愛妾になることを選ぶ。その茂子にたかる奔放なイケメンの弟(川津祐介)に、近所に住む村子(倍賞)は恋心を寄せる。村子はいかがわしいアルバイトで日銭を稼ぐが、やがて罰が当たる。要所要所で、水溜りがまるで意志があるかのように、人間のよこしまな行いを戒める存在として映し出される。この演出効果にうなった。
本作で倍賞は渥美清とはじめて共演した。ところが、舞台挨拶のトークで、倍賞はこのことを覚えておらず、後に指摘されてはじめて気付いたと明かして、満席の場内は大爆笑。

#272 2017.8.31 競輪上人行状記 1963 DVD鑑賞 自宅にて

主人公(小沢昭一)は寺の次男で中学教師をしていた。跡取りの長男が急死したため無理矢理その跡を継がせられる。檀家回りの金集めに倦んで、たまたま入った競輪場で大当たり。そして僧侶をしながら競輪にのめり込んでいく。もちろん、ビギナーズ・ラックは続くはずはない。負けを取り返そうとさらに金をつぎ込み、ノミ屋に莫大な借金をつくる。
1960年前後の競輪場の様子が何度も出てくる。なんと人がいて猥雑さと活気に満ちていたことか。まさにおやじたちの鉄火場だ。いまは高齢者の社交場に化しているが。
最後の大勝負で、いまでいう万車券を当てて借金完済。最後は袈裟を着ての競輪場の予想屋となる。「お前たちは税金を納めた上で、100円のうち25円もお上に上納している〔競輪の控除率=主催者側の取り分は25%〕。もっと堂々と生きろ」などと客に「法話」を説きながら、着順予想を売りつけるラストに大笑いした。映画のラストシーンはこうじゃなくっちゃ。ガールズ競輪としていまは復活している女子競輪もワンカット出てくる。南田洋子の妖しい美しさも見所だ。

#271 2017.8.30 パターソン 2016 新宿武蔵野館  

ある月曜日に夫婦が起床するシーンからはじまる。夫はバスの運転手、妻は専業主婦。夫は毎朝6時10分ごろ起きて出勤してバスを走らせる。夕方帰宅。夕食後に犬の散歩がてらパブでビールを1杯飲むのが日課になっている。実は生活の合間に詩をつくることが彼の趣味なのだ。妻は部屋の内装を変えたり、いきなりギターを買ったり、おかしなパイを焼いたりと、ちょっと天然系でかわいい。夫はそんなの妻のすべてを受け入れている。こんな彼らの終わりなき日常を次の月曜日まで淡々と描いた映画。爆笑したり派手に落涙したりするシーンはない。しかし、微笑したり涙腺がちょっと緩んだりするシーンに満ちていて、じんわり癒やされる。やっぱりバックアップは大事だね(これは観た人しかわからない!)
妻と観にいったのだが、「理想的な夫!」と言わ れて、やっぱり映画は一人で観にいくものだと苦笑した。あと、字幕を画面下に出すのはやめてほしい。前の客の頭で(特にこの劇場は)みえない。昔は画面右側に出ていたのに。

#270 2017.8.27 オリーブの樹は呼んでいる スペイン 2016 下高井戸シネマ  

まず冒頭に映し出されるスペインの養鶏場の光景に驚かされる。日本のブロイラーならケースに入れられているが、ここでは建て屋内に放し飼い。といってもすごい密度で、たいして動けない。当然死んでしまう鶏が毎日出る。それを拾い集めて運び出すのがここの作業員の仕事だ。主人公のアルマはここに勤める。祖父との思い出のオリーブの樹があるのだが、経営難を理由に父がそれを売ってしまった。祖父はショックのあまり言葉を失う。それはドイツの悪名高い企業の手に渡っていた。
 アルマはそれを取り戻そうと彼女の叔父と同僚を丸め込んで、はるかデュッセルドルフへトレーラーで向かう。スペインからフランス、そしてドイツへとどんどん景色は官僚的なものへと変わっていく。企業の受付前にデーンとそれは鎮座していた。アルマは会社の前に座り込んで粘るが、枝1本を持って帰るのがせいぜいだった。祖父はアルマの帰宅を待てずに他界する。子どものころ祖父から教わった挿し木をその枝でつくって、祖父の墓に植える。ああやっぱりと伏線が静かに回収された。

#269 2017.8.23 ハイドリヒを撃て チェコ英仏 2016 新宿武蔵野館   史実を学ぶ点では勉強になったが、映画のおもしろみとしては今ひとつだと感じた。前半はおもしろかったのだが、後半へと続く映画らしい意表を突く伏線がなく、結末はこうなるしかないといったものだった。ラスト近くになって、レジスタンスが潜伏先の教会の一室に立てこもる。そこへドイツ兵が銃を片手に無防備のままで突入し、レジスタンスに次々に射殺される。もうレジスタンスは袋のネズミだ。いくらドイツ軍とはいえ、こんな無謀なことはさせるだろうか。そんなせんさくはともかく、2作続けて殺戮シーンがふんだんに出てくる映画をみるんじゃなかった。
#268 2017.8.18 ハクソー・リッジ 豪米 2016 渋谷アップリンク  

真珠湾攻撃のあと、アメリカの良心的兵役拒否の青年が志願兵になる。しかし彼は訓練で銃を握ることを拒否する。これでは兵士として使えない。周囲は除隊させるよういじめ追い詰めるが、彼の信念は揺らがない。彼の中では銃に触れないことと志願兵として前線に出ることは決して矛盾していなかった。しかも、軍法会議は銃をもたないことも良心的兵役拒否の一つとして認める。アメリカは鼻持ちならない国だが、時に偉大な側面をみせるから侮れない。主人公は衛生兵として沖縄の激戦地ハクソー・リッジ(前田高地)へ向かい、75名の命を丸腰で救う。
「激戦」と漢字2文字で表現される現実が、もう見たくないくらいに再現される。血まみれでえぐり出された人間のはらわたを野ねずみがかじる。死者を冒涜するかのようにウジ虫が死体にこびりつく。「『プライベート・ライアン』〔#165〕を超える戦闘シーン!」とPRリーフレットにあったが、そのとおりだ。しかし、現実はこれよりはるかにむごいのだろう。
主人公役はアンドリュー・ガーフィールド。『沈黙-サイレンス-』〔#245〕の主人公役でもあった。『沈黙』では踏み絵を踏んでしまうが、本作では決して銃は取らない。これはアメリカ版「沈黙」かと思った。

#267 2017.8.16 彼女の人生は間違いじゃない 2017 新宿武蔵野館  

平日はいわき市の市役所の職員、週末は渋谷のデリヘル嬢。タイトルが結論を言っている。「彼女の人生は間違いじゃない」 主人公(瀧内公美)は仮設住宅に父親(光石研)と二人暮らし。農業を営んでいた父親はすることもなく、補償金を毎日パチンコで放蕩する。主人公は「英会話学校にいく」と偽り、男性の性欲処理の相手となって生活を支える。福島と東京を往復するバスのなかで、その葛藤を物憂げな表情で示唆する瀧内がすばらしい。『日本で一番悪い奴ら』〔#210〕の婦警役より何千倍もよかった。折々に福島の現状が映し出される。それが東京の享楽的光景と見事な対照をなしている。なにが復興かと砂をかむ思いがした。
作中に出てくる「うらん」というスナックの名には心底驚いた。現実にあったのだろうか。その常連でいわき市役所の職員役の柄本時生が、芯の通った役を愚直に演じているのもとてもよかった。

#266 2006.8.15 蟻の兵隊 2005 渋谷シアター・イメージフォーラム    
#265 1999.7.29 枕の上の葉 インドネシア 1998 岩波ホール    
#264 1997.7.31 アントニア 蘭ベルギー英 1995 岩波ホール    
#263 2017.8.6 STAR SAND -星砂物語- 日豪 2016 ユーロライブ   長女に誘われて観に行く。太平洋戦争末期の沖縄の孤島。戦火の及ばないこの島の洞窟で日米の脱走兵が生活をともにする。星砂を集めていた16歳の少女が偶然それを目撃して、二人の暮らしを支えることになる。見つかれば全員銃殺なのだが。やがて日本兵の兄の傷病兵が加わり、ある日平和な日常は一変する。少女はそこで起こったすべてを日記に残す。最後の部分以外はすべて真実を記した。その日記が戦後様々な人の手を経て現代の女子学生が読むことになり、彼女はそれがボールペンで記されていることに疑問を抱く。当時の日本にはボールペンはなかったのだ! 最その謎解きが後の運命的な出会いを用意する。チャップリンが「巴里の女性」で用いた、窓の光だけで列車の到着を表現する演出と似た手法で、米兵と少女の一夜限りの逢瀬を描いたのがニクかった。
#262 2017.7.28 朗読劇「線量計が鳴る」(演劇)   2017 東京・笹塚ボウル   中村敦夫渾身の一人芝居の朗読劇。予約で会場はいっぱいだった。2時間4場構成で、中村が扮する原発労働者が現役時代から退職後、さらには「3.11」を経た現代までのふりかえりを読み上げていく。実名がバシバシ出てくるところが迫力満点。だれかの手記を脚本化したものかと思ったら、すべて中村の創作というからすごい。原発の専門的な話については、専門家のチェックを受けているとのこと。原子力ムラは悪質な新興宗教団体だ、そして、カネに目がくらんでそれにおもねることを「感電する」というのだとの指摘に膝をたたいた。貴重な発言の数々。シナリオを販売してほしい!
#261 2017.7.12 ヒトラーへの285枚の葉書 独仏英 2016 新宿武蔵野館   ナチス政権下のドイツ。一人息子を第二次大戦で亡くした父親が、妻と協力してナチス批判のカードを書いてベルリン市内のそこここに置くというささやかな抵抗運動をはじめる。そのカードはほとんどが当局に届けられ、警察は犯人を血眼になって捜す。しかしその網になかなかかからず、置き去られるカードは増える一方。やっと捕まえたとき、夫妻はすぐに犯行を認める。それを望んでいたかのように。法廷でわずかの間同席した両者が手を取り合ってちょっと相好を崩すシーン。笑う箇所も出演者の笑顔もほとんどないだけに、ここが際立つ。二人は従容としてギロチン台へ向かう。その後、捜査にあたった刑事が執務室の窓から没収したカードをまき散らし、ピストル自殺するラストには意表を突かれた。「裸の王様」にみな良心を痛めつけられていたのだ。
#260 2017.7.2 ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。 日・台湾 2016 新宿シネマカリテ   フェイスブックを通じて知り合った日本の青年と台湾の女子学生が、恋を実らせるまでのラブ・コメディ。実話に基づいている。リンちゃんに扮するジエン・マンシュー(簡嫚書)のかわいさがスクリーン狭しと炸裂する。それを相手の茂木くん役の中野裕太が抑え目の演技で引き立てる。『ローマの休日』のグレゴリー・ペックのよう。さらに『ローマの休日』を思い起こさせるバイクの二人乗りシーンもある。娯楽映画として楽しめた。茂木くんがリンちゃんの大学卒業祝いに3000円の花束を贈ろうとして、それを小耳に挟んだおっさんから「男ならケチケチするんじゃねえ。1万円にしろ!」とたしなめられるシーンに大笑いした。確かにケチだともてないよね。
#259 2017.6.17 家族はつらいよ2 2017 TOHOシネマズ府中   さすが山田洋次! 安心して観ることができるコメディだ。今回は老後問題という重いテーマを笑いをまぶして軽妙に斬ってみせた。73歳になっても道路工事などの工事現場の誘導係をやっている小林稔侍がキーパーソンになって、橋爪功一家に波乱をもたらす。橋爪家はいつもの面々。橋爪の台詞回しが寅さんのようで楽しい。看護師役の蒼井優が今回もいい役を振られている。刑事役の劇団ひとりも笑える。ただ、『東京家族』(2013年)では蒼井が書店員を演じて、勤務中に携帯メールをみるシーンがあった。今回も同様のシーンがある。看護師が勤務中にスマホをチェックするだろうか。そこだけは気になった。
#258 2017.6.4 マンチェスター・バイ・ザ・シー 2016 恵比寿ガーデンシネマ   2日後また同じ映画館に来てしまった。その前に2回連続で来ていた武蔵野館にこの映画がかかっていて、毎回満席の盛況だった。一見の価値ありと踏んで観に行ったが、まさにそのとおりだった。今年のアカデミー賞主演男優賞に輝いたケイシー・アフレックが、マサチューセッツ州にある人口5000人ほどのうらぶれた港町を舞台に、シブイ演技をこれでもかと観せてくれる。主人公は自分の過失でこの町にある自宅を火事にして、娘二人と息子一人を亡くした。堪えきれずにボストンへ引っ越して便利屋として生計を立てていた。そこに兄の急死の報が入り、やむなく町へ戻って、兄の息子つまりおいの後見人にさせられる。とはいえ、この町にいるとあの火事がフラッシュバックして、その苦しみにさいなまれる。きわめつけは、それをきっかけに別れた元妻と偶然にも再会したことだった。そのあとパブでけんかをふっかけてぼこぼこにされる。ボストンに早く戻りたい主人公とこの町に住み続けたいおい。最後になんとか落着する。この町にいるのは「乗り越えられない」と主人公がおいに告白するシーンが圧巻だ。心に負った深傷は決して癒えることはないのだ。おいのガールフレンド宅に主人公がおいをクルマで迎えに行ったところ、そのGFの母親が「まだ時間がかかるから、あがってビールでも飲んでいたら」と誘ったせりふには驚いた。かの国では酔っ払い運転は合法なんだ。あるいはビールはアルコールではないということなのか。けっこう酔うけどね。
#257 2017.6.2 ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー 2015 恵比寿ガーデンシネマ   絵コンテというとジブリのようなアニメ映画の世界だけの存在とばかり思っていた。ところがふつうの映画にも絵コンテは存在する。場面展開をイラスト化したもので、これを参考にしながら監督は撮影作業を進める。名監督の名シーンといわれるものも実は絵コンテのままだったりする。一方、映画には正確な時代考証が欠かせない。映画の命ともいってよく、それがおざなりだと興ざめする。ハリウッドにはリサーチャーという時代考証を専門とするスタッフがいた。しかし、彼らの氏名は映画にクレジットされることはない。絵コンテ作家のハロルドとリサーチャーのリリアンは、夫婦でハリウッドの全盛期を縁の下で支えた。3人の男の子に恵まれたが、第1子は自閉症だった。ハロルドは足に大けがをして仕事ができずに酒浸りになる。こんな二人の人生行路をリリアンがなれそめから夫の最期までをユーモア混じりに穏やかに振り返り、それが絵コンテになって映し出される。そこに、彼らが携わった映画の名場面や関係者のインタビューが挿入されていく。誠実さと誇りをもって仕事をすることが周囲の信用をかちえて、未来を切り開く。この真理が諄々と説かれているような気がした。終の住処のリリアンの部屋のドアには、彼女の現役時代にデスクに置かれていた「RESEARCH」というプレートが掲げられていた。このショットが効いている。字幕がスクリーンの左右両端に同時に出ることがある。首を振って読んでいると場面が進んでしまうので、後方席で観るのがオススメ。
#256 2017.5.24 笑う招き猫 2017 新宿武蔵野館   自宅から駅に向かう途中に「こもれび」というお弁当やさんがある。そこでロケをした映画で、しかも清水富美加が幸福の科学に出家する直前の主演作品というわけで、これは観なければ。清水はそこでのバイト店員という設定だった。彼女と元SKE48の松井玲奈が組む売れない女性漫才師の奮闘ぶりがスクリーン狭しと描かれる。漫才師に限らずどの世界でも成功している人はほんの一握り。売れることを目指してみんなアヒルの水かきをしている。努力が報われるとも実力が正当に評価されるとも限らない。ちょっとした運がつかめるかどうか。松井が「神様目が悪いんだよ!」と叫ぶシーンが心に響いた。まさに体当たりの清水の熱演がもうスクリーンで観られないのかなあと、ラストでの渾身の漫才を演じ終えたあとの彼女の達成感あふれる笑顔をみて思ってしまった。
#255 2017.5.21 トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡 2017 新宿武蔵野館   銚子から外川(とかわ)まで銚子電鉄というローカル私鉄が走っている。高校時代にこれに乗って犬吠埼に行ったことがある。それが青春映画の舞台になるとは。銚子電鉄は何度もの廃線危機を乗り越えた「奇跡の電車」とよばれている。沿線の高校生たちが銚電起こしイベントを企画する。銚電と自分たちが走るのとどちらが早いか競おうというものだ。そこに様々な「大人の事情」が絡み合う。この伏線が単なる青春礼賛映画に終わらせないスパイスになっている。「鉄道は人と人をつなぐトモシビだ」との泣かせる台詞も出てくる。主演の松風理咲のさわやかな演技もよかったが、その母親で未亡人役の富田靖子や認知症の老人役の井上順がいい味を出していた。
#254 2017.5.4 ソング・オブ・ザ・シー 海のうた アイルランドほか 2014 高田世界館   帰省の折に長女と観にいく。もはや帰省恒例となった高田世界館での映画鑑賞。今回はアイルランドの神話に基づくアニメ。竹取物語ではかぐや姫は月に帰るが、この物語では主人公シアーシャの母親は実はアザラシの妖精で海に帰る。ジブリの『千と千尋の神隠し』に出てくる魔女の湯婆婆(ゆばーば)を思い起こさせるおばあちゃん妖精も出てくる。ジブリ大好きの長女はおもしろかったといっていたが、私はどうもこの世界に入り込めなかった。
#253 2017.4.29 「知事抹殺」の真実 2016 渋谷アップリンク   2006年に佐藤栄佐久福島県知事が収賄罪で逮捕された。有罪判決が確定したが、収賄額はなんと0円だった。「闇権力の執行人」が原発反対だった佐藤に魔の手をかけたのだ。佐藤は東京拘置所での取調中に、支持者が検察の取調べに苦しめられ自殺を図る者まで出ているのを知らされ、虚偽の自白をして支持者を救おうと決意する。国家権力がその気になれば、犯罪をでっち上げて知事を「落とす」ことなど朝飯前なのだ。まして一介の個人はと考えたら悪寒が走った。裁判では、知事室が記録していた佐藤の克明な行動記録が検察の筋書きを突き崩した。なによりも事実は強い。手帳にこまめに記録を付けておこう。この国策捜査でやはり逮捕された佐藤の実弟の言葉が胸に突き刺さる。「検事は被疑者など人間と思っていない」「この国は司法に関しては後進国だ」
#252 2017.4.23 人生タクシー イラン 2015 新宿武蔵野館   長女と観に行く。ふだん映画を観る前にはその映画についての予備知識はできるだけもたないようにしている。ネタバレは興趣がそがれる。ところが、この映画ばかりはきちんと予習して観るべきだったと見終わった瞬間に後悔した。表現の自由を厳しく禁圧するイランで、20年間の映画製作禁止令を受けたジャファル・パナヒ監督がタクシー運転手に扮してテヘラン市街を流して、乗り込んでくる乗客の市民生活を車載カメラから活写するドキュメンタリー・タッチの作品。死刑執行数がイランは中国に次いで多いことを嘆く学校の先生、禁止されている欧米の映画の海賊版DVDが売買される場面、正午までに金魚を泉に戻さないと自分たちが死んでしまうと乗り込んでくる老婆2人組、監督のおしゃべりでおませでかわいい姪など。もちろんイランでは上映禁止だ。最後は監督と姪が泉へ金魚を確認しにいったすきに、車上荒らしに入られて画面が真っ黒になって幕となる。テヘランの道路にハンプ(自動車の速度を落とす目的で道路上に設置されたかまぼこ状の突起)があったのにはびっくりした。日本ではまったく普及が進まない。
#251 2017.4.21 未成年 続・キューポラのある街 1965 ビデオ鑑賞 自宅にて 「キューポラのある街」で吉永小百合扮する主人公ジュンは中学3年生の設定だが、その3年後の本作では定時制高校3年生になっている。昼間はカメラ工場勤務である。大学進学を夢見てコツコツ貯金している。ところが、鋳物職人の父は機械化のあおりで職場を追われ、ボーイフレンドの克巳は事業に失敗して多額の借金を抱える。ジュンはせっかくの貯金を全額克巳に用立てて、定時制高校を退学せざるを得なくなる。それでも逆境に負けまいと、ジュンがまなじりを決して歩くシーンで終わる。実はこの映画の裏テーマは北朝鮮帰国事業なのだ。前作ではジュンの親友のヨシエが朝鮮人の父とともに北朝鮮へ帰る。日本人の母を残して。本作はヨシエが北朝鮮で幸せに暮らしているとジュンに伝えるシーンからはじまる。ジュンは朝鮮高校の男子生徒に心を惹かれる。その男子生徒からヨシエの父ががんで入院したと知らされたジュンは、ヨシエの母親に北朝鮮に渡るように勧める。ついに母親はその決意を固めて出国の途に就く──。これが当時の時代の気分だったのだ。
#250 2017.4.3 標的の島 風(かじ)かたか 2017 ポレポレ東中野   辺野古の新基地建設や高江のヘリパッド建設に反対する人々の体を張った抵抗の様子を描いたものだろうと思っていた。もちろんその闘いぶりも十分に取り上げられているが、むしろ興味深かったのは、宮古島、石垣島、与那国島といった先島諸島の住民たちの反対運動である。ここでも自衛隊が配備され、あるいは配備するための準備が着々と進められているのだ。まさに不明を恥じた。第2次大戦の末期、これらの島々では地上戦はなかったが、日本軍が駐留してきて住民をマラリアが猖獗をきわめる地帯へ強制疎開させたという。軍は住民を守らないことを彼らは決して忘れない。「本土」の「風(かじ)かたか〔風よけの意〕」に再びなってたまるかとの経験に裏打ちされた意識が彼らを鼓舞する。ラストは高江。県外から大量動員された警官隊に排除される住民たちが、警察官に「あんたたちのやってることの意味がわかるか」と食い下がる。無表情の若い警察官たち。「おれたちだってやりたくてやってるんじゃない」と言い訳しているようだった。
#249 2017.4.1 ムーンライト 2016 TOHOシネマズ新宿   2017年のアカデミー作品賞を受賞した1本。「映画館を出る時には人生が変わっている」とのセールストークは誇大だが、『ラ・ラ・ランド』よりははるかにマシだった。ただ対照的に、笑えるシーンも恋にときめくシーンも一切ない。重たいトーンが全体を貫く。ドラッグの売人として生計を立てている黒人のおじさんに心を開いた内向的な黒人少年が、最後には自分もドラッグの売人になって羽振りをきかす。とはいえ、彼の母はドラッグ中毒、彼自身はLGBT。マイアミ、そしてアトランタ。アメリカ南部の病巣がえぐられている。『シェルブールの雨傘』のように、明確に3部構成になっているのはわかりやすくてよかった。食事のシーンが何度も出てくる。アメリカではこんなものを食べているのかとあぜんとさせられた。すべて油ギトギトだ。ラストの舞台となる、主人公の親友が勤めるレストラン以外は。ただ、そのレストランに星条旗の小旗がこれでもかと飾られていることにうんざりした
#248 2017.3.30 おとなの事情 2016 新宿シネマカリテ   新宿シネマカリテ おとな7人(夫婦3組+男性1人)が集まったホームパーティでひょんなことから、全員がスマホをテーブルに出して、かかってくる電話やメールをさらすことになる。ところが、夫婦とはいえ隠し事はいっぱいある。各自が「事情」を隠すために嘘に嘘を重ねることになり、パーティはてんやわんやとなる。台詞に含みがあっておもしろいのだが、最初の30分くらいは会話のテンポが速くて字幕を読むのが精一杯なのが残念。吹き替えでかけたらもっと楽しめたろう。「事情」は不倫ばかりか、やっかいな義母を老人ホームに追い出す計略だったり、カミングアウトできないLGBTだったりする。共謀罪が現実味を増しているなか、他愛もないコメディとはとても思えなかった。日本風にいえばマンションが舞台なのだが、キッチンとリビングのなんて広いこと。うらやましい限りだ。ワインをがぶ飲みしたパーティのあと、みんなクルマで帰る。イタリアでは酔っ払い運転はOKなのか。その後のラストシーンには大笑いした。
#247 2017.3.20 わたしは、ダニエル・ブレイク 英仏ベルギー 2016 新宿武蔵野館   ケン・ローチ監督のイギリス社会への怒りを込めた傑作。展開がわかりやすいのもよかった。病気で失業したベテランの大工ダニエル・ブレイクが、手当の申請に日本でいえばハローワークを訪れる。職員の血の通わない対応に憤慨しながらも、手続きに従うことに。そこでロンドンからやってきたシングルマザーのケイティが職員とやり合う場面に出くわす。ダニエルはケイティに加勢してハローワークを追い出される。これをきっかけに二人は互助的友情を深めていく。ダニエルがフードバンクにケイティとその子どもを連れて行く。ケイティが「生理用品がない」とスタッフに嘆く。その後、雑貨店で彼女は生理用品を万引きして警備員につかまる。現代の絶対的貧困が強烈に示唆される。ハローワークの対応にキレたダニエルが建物の壁に、“I,DANIEL BLAKE”などとスプレーで落書きするシーンは圧巻。チャップリンの「ニューヨークの王様」のラストで、非米活動委員会に召喚された王様が消火ホースからの放水で委員たちを「水責め」にしたシーンを思い出した。
#246 2017.3.12 スプリング、ハズ、カム 2017 新宿武蔵野館   妻と長女と3人で観に行く。おかしさの中にも切なさがこみあげてくるいい映画だった。娘の出産の翌日に妻を亡くした主人公。男手ひとつで娘を育てて、ついに娘は東京の大学に合格して広島の実家を出ることになる。2月末に父娘で娘の下宿先を探す1日に、二人はひょんなことから様々な人々に出会い、人間模様が交錯する。実は、娘は地元の短大への進学を望んだが、いつまでも実家にいて自分に気を遣わせてはいけないと、父親が東京行きを勧めたのだった。この1日が父親と娘それぞれにとって、心の整理を付ける時間となる。1日の最後に父親が娘をおんぶするシーンにジーンときた。「スプリング、ハズ、カム」という書き方が変わっているが、二つの「、」に娘との別れになる、来てほしくない春がついに来てしまったという含意があるのだと、観終えてわかった。
#245 2017.3.10 沈黙─サイレンス─ 米伊メキシコ 2016 角川シネマ新宿   遠藤周作の原作をスコセッシ監督が映画化した。162分という比較的長尺ものだが、長さを感じさせない場面展開はさすがだ。当時の人々の信仰の篤さは現在からはとても想像がつかない。来日した神父を「転ばせる」ために、本人への拷問ではなく、そんな信仰篤き信者を拷問する様を見せつける、心の拷問が行われた。ついに神父は「転ぶ」。踏み絵を踏む。その後、日本名と日本人妻を授けられ、キリスト教を連想させる禁制品をチェックする仕事に携わる。そして日本で死去する。葬儀の折に、妻が遺体の手に小さな十字架を密かに握らせる。荼毘の炎の中でそれが明らかにされる。本心では生涯「転んで」はいなかったのだ。心に深く刻印されたものは、どんな力によっても決して変えられない。
#244 2017.3.3 タイタンズを忘れない 2000 DVD鑑賞 ゼミ有志と 年度末恒例の追いコン前のゼミ有志との「シアター・ゼミ」。私はアメフト大好きなのだが、ルールがわからないゼミ生にはちょっとキツイかなと余計な心配をしてしまう。しかし、その後の追いコンでそれは杞憂だったとわかり安心する。1970年代のヴァージニア州での人種統合高校へ黒人のアメフト鬼コーチが赴任する。実績のある白人コーチは守備コーチに降格となる。むしろ選手たちのほうが打ち解けるのが早かった。白人コーチは最後までわだかまりを捨てられなかったが、最後の試合の土壇場に追い詰められて、娘の一言で腹をくくる。このかわいい子役が要所要所で重要な役割を果たす。縦横に張られた伏線がわかりやすく回収されていくのが、小気味いい。それにしても、鬼コーチ役のデンゼル・ワシントン、かっこいいなあ。
#243 2017.3.1 真白の恋 2016 渋谷アップリンク   Yahooの映画レビューで高得点だったので、映画の日にあわせて長女と観に行く。ここも満席だった。軽い知能障害を抱えた女性を主人公としたすばらしい映画だった。淡い恋物語なのだが、深い含意が台詞のそこここにこめられていて、考えさせられるシーンが多かった。真白が障害者であることを教えられた油井君が「障害者ってなにをもってそういうんですか」と反問する。真白が油井君に「東京に行きたい」とせがむが、断られると真白が「障害者だから?」と言い返す。また、はじめてのデートで油井君と自転車を二人乗りする真白が、油井君の腰に手をかけるときの一瞬の戸惑いがしおらしい。舞台となった富山の風景も美しく撮られている。上映終了後に、主演の佐藤みゆきさんの舞台あいさつという幸運に恵まれた。映画館を出た後、長女が「いい映画だったね」と言ってくれたのが、なによりうれしかった。いい映画をみたあとの形容しがたい高揚した気分で渋谷駅まで歩いた。
#242 2017.2.27 母 小林多喜二の母の物語 2017 K’sシネマ   開映15分前に行ったが、客席は中高年ですでにあらかた埋まっていた。主演の寺島しのぶの演技がうますぎて、他の俳優がみな大根にみえてしまった。台詞が優等生的なものばかりでちょっとうんざりした。ベタすぎるというか。駐在の警察官役の徳光和夫がいい味を出していた。登場が1回だけなのが物足りない。なにかの伏線かと思ったのだが、映画らしい意表を突く伏線がまるでない。ただ、熾烈を極めた多喜二への拷問で、二度と小説を書けないように手をへし折ったのだと知り、心に鳥肌が立った。
#241 2017.2.24 ラ・ラ・ランド 2016 TOHOシネマズ府中   まったくの期待外れ。これが「アカデミー賞大本命」とは。自分の映画をみる眼に自信をなくした。ミュージカルといえば「シェルブールの雨傘」や「サウンド・オブ・ミュージック」がすぐに頭に浮かぶ。それとの比較は失礼なくらい駄作にみえた。カネがかかっているのだけはよくわかったけど。
#240 2017.2.20 スノーデン 2016 TOHOシネマズみゆき座   湾岸戦争時にアメリカが、イラクのコンピュータシステムをコンピュータウイルスに感染させて、ミサイルを発射できなくさせたという話を聞いたことがある。いまやサイバー空間のもつ死活性はその比ではない。アメリカは日本のすべてのコンピュータシステムをシャットダウンさせることができる。「日本死ね」はクリック一つで可能なのだ。メールや電話の盗聴はもちろん、室内の盗撮さえできてしまう。スノーデンがパスワードを打ち込むとき、毛布をかぶって手元をみられないようにしたシーンが印象的だった。個人情報は実はだだ漏れなのだ。オーウェルが『1984年』で描いた世界は、まさに現実のものとなっている。戦慄の映画だった。スノーデンの恋人がスノーデンの写真をしょっちゅう撮っていた。これがなにか大どんでん返しの伏線かと思ったが、当てが外れた。
#239 2017.2.19 人生フルーツ 2016 ポレポレ東中野   大ヒットで土日は午前8時30分の回が追加された。日曜日の朝8時ごろ行くともう行列ができていて、びっくりする。最近のはやりなのか、仲のいい老夫婦の生活を描いたドキュメンタリーだった。舞台は愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウン。東京の多摩、大阪の千里と並ぶニュータウンの元祖だ。夫はこの街の設計に携わっていた。しかし実際は夫の夢とゆとりある構想より、当時の経済最優先の思想が取り入れられて、ニュータウンは造成されていく。それでも夫はここに土地を買って、家を建て木々を植えて、宝箱のような住まいを築く。アンチテーゼを証明するかのように。夫婦で農作業に励んで、食卓には取れたての野菜や果物が並ぶ。それが彩り豊かに撮られている。観ながら、徐々に老後への心構えをさせられている気になった。とはいえ、コンクリートの箱の我が家では、あのような暮らしは夢のまた夢だな。樹木希林のナレーションがよくマッチしていた。
#238 2017.2.17 LIVE FOR TODAY –天龍源一郎– 2017 ユナイテッドシネマ豊洲   豊洲まで遠出して観にいった甲斐があった。「ミスター・プロレス」こと天龍源一郎の2015年2月の引退表明から2015年11月15日に両国国技館で引退試合を行うまでを描く。実の娘を自身のプロダクションの代表に据えて、全国のリングを引退興行で行脚する。65歳にしてこのハードスケジュールか! 裸一貫とはこの職業のことだと実感する。「お客さんは命の次に大事なものを払ってみにきている」と、真剣にプロレスに向き合う実直な人柄に心を打たれた。引退試合の対戦相手は、新日本プロレスのエースであるオカダ・カズチカ。最後はオカダが必殺のレインメーカーで天龍をマットに沈める。スリーカウントを奪ったあと、オカダがマットに仰向けになっている天龍に最敬礼してリングを降りるシーンにしびれた。長州力が出てきたり、天龍がジャンボ鶴田の墓を見舞ったり、ジャイアント馬場の思い出話をしたり、最後には坂口征二まで登場して、楽しかった。
#237 2017.2.7 未来を花束にして 2015 TOHOシネマズシャンテ   イギリスで女性が参政権(30歳以上)を獲得したのは1918年である。世界史の教科書的には「第4回選挙法改正」のわずか1行で済まされてしまう。しかし、そこに至るには市井の女性たちの戦闘的な運動があったことをはじめて知る。おしゃれなタイトルからはまったく想像していなかった。ショーウィンドウに投石し、電話線を切断し、郵便ポストを爆破し、ロイド=ジョージ首相の別荘に放火する。国王が謁見するダービーで、競走馬に体当たりした女性活動家の死をもって、ようやく実現へと世論は動き出す。命を賭さなければ世の中は変わらないのか。主人公の女性は少女の頃からクリーニング工場で働かされていた。その労働環境を議会でロイド=ジョージに訴えるシーンも心に響いた。その後、彼女は活動にのめり込むあまり、家庭を失ってしまう。大切ななにかを犠牲にしなければ大義はなしえないという、峻厳な事実を突きつけられた。
#236 2017.2.5 アラビアの女王 米モロッコ 2015 新宿シネマカリテ   妻に誘われて観にいく。20世紀のはじめにアラビアを踏査した女性考古学研究者ガートルード・ベルの勇気ある探検ぶりを、果てることのない砂漠を背景に描く。彼女の助言によって、第一次大戦後のイラクの国境線は引かれたのだという。2度の恋はいずれも相手方が死去するという悲劇的な結末に終わる。それを彼女は探検と研究にのめりこむエネルギーに変える一方、生涯独身だった。いわば女性版「アラビアのロレンス」。勉強になったが、映画としては感情を大きく揺さぶられるシーンはなかった。伝記映画だからやむを得ないところか。
#235 2017.1.27 太陽の下で-真実の北朝鮮- チェコ、ロシア、ドイツ、ラトビア、北朝鮮 2015 シネマート新宿   どの社会でも本音と建て前がある。しかし、この国ほど本音と建て前がかけ離れた社会はないのではないか。国民だれもが「王様は裸」であることを知っている。しかし、それは行動や発言には決して出せない。隠し撮りで映された国民の素顔にその矛盾がよく表れている。軍人のつまらない話に思わずあくびをする8歳の主人公ジンミの表情こそ国民の本音なのだ。ラスト近くで、カメラに追われることに疲れたジンミが泣き出す。スタッフはなんとかとりなそうと、好きな詩を尋ねる。するとジンミは3人の「元帥様」を讃える、とおりいっぺんの「お経」を唱え出す。少女をここまで洗脳する教育の「徹底ぶり」に茫然自失となった。隣のおやじ客のいびきがうるさくて、集中できなかったのがなんとも悔やまれる。
#234 2017.1.25 ニュー・シネマ・パラダイス 伊仏 1989 ニュー八王子シネマ   結婚前に妻とみた思い出の映画。1月末で閉館するニュー八王子シネマに観にいく。映画でも、映画館「ニュー・シネマ・パラダイス」は閉館し解体されてしまうからうってつけの作品だ。ただ、カット版であることを途中で気づく。大事な伏線が一つ回収されないで終わってしまう。上映時間からわかったはずなのにと反省する。でも、ニュー八王子シネマにお別れを言いに来たのだから、よしとしよう。
#233 2017.1.24 アルジェの戦い 伊アルジェリア 1966 下高井戸シネマ   アルジェリアの独立闘争を描いた名画の評価の高い作品。確かにこれだけのスケールを、記録映像を一切使わず撮りきった監督の手腕はすごいと思う。ただ、テロや銃撃で人が死んでいくシーンの連続に殺伐とした気持ちにさせられた。テロはテロしか生まないんだ。
#232 2017.1.20 初恋のきた道 中国 1999 TOHOシネマズ府中   90年代から50年代への倒叙形式の映画だが、現在がモノクロで過去がカラーという逆転の色使い。見終わってしばらくして、美しいヒロインの赤い服を際立たせるための演出だったのだと気づく。町から遠く離れた寒村の小学校に、雄大な大自然のなかに切られた一本の道を通って、若い先生が赴任してくる。ヒロインは一目惚れして恋を成就させようとし、道を介して二人は急接近する。しかし、政治の影響がこの村にも及び、先生は「右派」として町に連れ戻されてしまう。先生が帰ってくると約束した冬の日、吹雪の中、ヒロインはひたすら道で待ち続ける。結局、先生は現れずヒロインは高熱に冒される。清潔な純愛物語が、季節感がひしひしと伝わってくる美しい映像に溶け込んで展開されていく。当時は、割れた瀬戸物を修理する職人がいて、ヒロインが割ってしまった瀬戸物を母親が職人に直させる。これが二人の恋の行方を暗示する。50年代の教室には毛沢東の写真が掲げられていたが、90年代には五星紅旗に変わっていた。教室内にエンゲルスの写真とことばが貼ってあったり、老いたヒロインの自宅にタイタンズのポスターが貼ってあったり、とディテールも興味深かった。
#231 2017.1.13 幸せなひとりぼっち スウェーデン 2016 新宿シネマカリテ   いい映画だった! 最愛の妻に先立たれた頑固おやじ。その偏屈ぶりのため近所からは疎まれるが、本人は一向に意に介さない。早く妻の元に行きたいと何度も自殺を試みるが、そのたびに邪魔が入る。そして、知らず知らずに「ひとりぼっち」にはさせてもらえなくなる。その過程で、生い立ちから妻との出会い、出産を控えた妻とのスペイン旅行でバスが転落して九死に一生を得たこと、そのせいで妻はおなかの子どもを失ったばかりか、車いす生活を余儀なくされたこと、それでも妻は逞しく逆境をはねのけ、生徒に慕われる教師になったこと、などなどが回想されていく。笑いと涙で顔がくしゃくしゃになった。そして、主人公の葬儀には大勢が参列する。葬儀から帰った、主人公の隣家の娘が主人公のまねをするラストが、すてきな余韻を残す。
#230 2017.1.7 SUPER FOLK SONG ピアノが愛した女 2017
(1992の
デジタル・
リマスター版)
新宿バルト9   天才ピアニスト矢野顕子のレコーディング・シーンを克明に描いたドキュメンタリー。「〔できのいいところのテープを〕つなげば」とのスタッフの助言に決して首をタテに振らない。1曲を通して納得いくまで歌い、弾き終えるまで絶対に妥協しない。昼食に誘われても、「いま声が出てるから、食事が入ることで変わるのが恐い」といって受け付けない。そして、完璧な演奏と熱唱をやり遂げたあとの、達成感に満ちた表情に神々しさを感じた。一方で、昼食が届くのが遅れて「楽譜がうどんにみえてきた」とピアノを離れ、出前がようやく届く。ところが、器が冷たいのにむっとした表情がかわいい。モノクロで撮られている。むしろそれが矢野の音楽に対するストイックさを象徴しているようで、よかった。
#229 2017.1.5 ねぼけ 2015 新宿K’sシネマ   落語家は売れてなんぼの職業である。年功序列など関係ない。主人公の仙栄亭三語郎は鳴かず飛ばずの毎日だが、鬱病を落語に救われた真海(まなみ)に支えられ、甘えて酒浸りの自堕落な生活から抜け出せない。清楚な真海と好対照をなしている。三語郎の言動に真海がキレて、故郷に帰る。真海の存在の大きさにやっと気づいた三語郎は真海を迎えに行く。三語郎が正面から落語に取り組む気になり、真海との生活も順調に進みはじめた矢先、真海は急逝してしまう。真海の亡骸を前に、三語郎は渾身の「替り目」を演じる。ここは泣ける。師匠の点雲が三語郎を「二言目には『でも』、『でも』。お前は言い訳で逃げてばかりだ。なんで正面を切れないんだ」と一喝するシーンがある。今年は「でも」を禁句にしたいと念じた。
#228 2017.1.2 この世界の片隅に 2016 高田世界館   なんてすばらしいアニメ映像なんだ。主人公のすずに声優初挑戦ののんの声がぴったり合っていた。米軍による呉の空襲で、すずが連れて歩いていためいを失い、みずからも右手を落とす重傷を負う。すずは子どものころから絵がとても上手で、その絵で周囲をなごませてきた。それが永遠に描けなくなってしまう。回復して、左手一本で嫁ぎ先の廊下をかいがいしくほうきで掃き掃除するすずに涙があふれた。ただ、広島の実家へは8月6日に帰る予定が延びて、命拾いする。自分の力ではどうすることもできない不条理を、笑顔を絶やさず耐え抜くすずのたくましさに胸が一杯になった。
#227 2016.12.28 アズミ・ハルコは行方不明 2016 新宿武蔵野館   蒼井優はやっぱり山田洋次作品で観たい。とと姉ちゃんの高畑充希が対照的な役柄を演じていて、おもしろかった。ただ、作品自体は二つの時間軸の話が交互に進行するで、頭を切り換えるのに疲れた。警察官が交番の前でものを食べながらスマホをいじるなど、絶対にありえない。このシーンを観たところですでに頭に「?」が浮かんだ。ラスト近くでギャング女子高生が拳銃を構える警察官の一団を、手で拳銃をまねて「バーン」と叫んで蹴散らしていくシーンには、しらけきった。エンドロールで流れる主題歌がいい歌だったのに救われたが。
#226 2016.12.18 マダム・フローレンス! 夢見るふたり 2016 新宿バルト9   映画は映画館の大きなスクリーンでみないと映画に失礼だと実感した。日曜日早朝の劇場はすいていて、貸し切り気分でくつろげる。主演のフローレンス役のメリル・ストリープの熱演はもちろんだが、内縁の「夫」シンクレア役のヒュー・グラントがむちゃくちゃカッコイイ。こんなオヤジになりたいものだ。時代は1944年。音痴の女優フローレンスがカーネギーホールで歌うと言い出す。シンクレアの必死の「配慮」で本人はその欠点に気づいていない。戦場から帰国した兵士などでホールは埋まり、そのひどい歌声を野次る。しかし、ある女性観客の一喝でスタンディング・オベーションに一転する。このシーンは泣ける。それにしても、戦争中でもこんなに豊かな国とよく戦争したものだと、その合理的思考の欠如に愕然とさせられた。
#225 2016.11.25 サイコ 1960 DVD観賞 自宅にて ヒッチコックによるスリラー映画の傑作。試写の段階ではヒッチ自身が駄作だと認めたが、妻のアルマとの必死の編集作業の結果、見事な仕上がりとなる。出来心から会社の大金を銀行に預けずに持ち逃げしたOL(ジャネット・リー)が、逃亡途中に宿泊したモーテルのバスルームでシャワー中に刺殺される。犯人はモーテルの経営者なのだが、そのなぞ解きのラストシーンには息を吞む。ジャネット・リーの恐怖の表情といい、経営者のミイラ化した母親が振り返るシーンといい、やはり映画館の大きなスクリーンで迫力を堪能したかった。それにしても、映画に出てくる当時のアメ車のボディスタイルがいかにもガソリンがぶ飲みといった体で、あんぐりした。
#224 2016.11.18 生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言 1985 DVD観賞 自宅にて コザ暴動(1970年)の結果、日本に密入国したバーバラ(倍賞美津子)と宮里(原田芳雄)。戸籍も住民票もないため、堅気の職には就けない。バーバラはヌードダンサーとして、宮里は原発ジプシーとして全国を転々とする。福井の原発銀座で二人は事件に巻き込まれる。そこはヤクザと警察が癒着して、原発労働者とその相手をする娼婦を食い物にしていた。ふとしたきっかけから、バーバラにつきまとうことになった元教師(平田満)が,お試しに原発労働者となって現場に入っていく。作業服に着替えるシーンが怖い。ケガをしても原発内には医者は入れないため診てもらえない。事故死すればドラム缶にコンクリート詰めされ、ヘリでどこかに運ばれるとの噂が語られる。原発はウソに満ちているのだ。筋がやや複雑で展開がわかりにくいのが玉に瑕だが、社会矛盾を見事にえぐり出した作品であることは間違いない。
#223 2016.11.6 続・深夜食堂 2016 新宿バルト9   口直しの映画を観ないと気が済まなくなって、日曜日の朝になって急に観にいくことにする。おもしろかった! 映画はこうでなくちゃあ。伏線がたくさんはられていて、それが交わったり離れたりする。庶民的な和食の数々が、なんとおいしそうに美しく撮られていることか。第2話ではキムラ緑子がさすがの演技をみせる。腹を抱えて笑った。夏から冬へ季節感も彩り豊かに描かれる。店主役の小林薫が客の注文をきいて、「あいよ」と返事するのがかっこいい! すっかり口直しができた。
#222 2016.11.1 フラワーショー! アイルランド 2014 下高井戸シネマ   つまらなかった。実話の映画化だからやむを得ないのかもしれない。それにしても、予想どおりの順当な話の展開で「ああやっぱりね」と何度も心の中で呟く羽目に。意外性に乏しいというか、映画ならではのどんでん返しの凄みがないというか。ガーデニングの世界的大会であるチェルシー・フラワーショーに、アイルランドの若い女性が挑戦する。彼女が目指す庭作りに不可欠のイケメン植物学者をエチオピアまで追いかけ恋を成就させ、フラワーショーでも優勝する。ガーデニングに興味があれば、その観点から楽しめたかもしれないが。
#221 2016.9.19 コロニア 独ルクセンブルク仏 2015 角川シネマ新宿   最終盤まさに手に汗握るシーンの連続。主演のレナ役のエマ・ワトソンにみとれてしまった。レナの恋人でチリ滞在中のドイツ人がピノチェト政権に捕らえられ、ナチの残党がつくった広大な施設「コロニア・ディグニダ」で拷問され、そこに収容される。恋人を救い出すために、レナは無謀にもその施設の住人になる。ようやく恋人と再会できたものの、絶望的な監視体制が敷かれている。あるとき恋人が秘密地下道の存在に気づき、サリンの実験台にされる前日に必死の脱出行を敢行する。奇跡的に成功した二人はチリの西ドイツ大使館にコロニアの写真を持ちこむ。しかし、大使館のローカルスタッフにはピノチェト政権に通じた職員がいた。二人が乗り込んだフランクフルト行きの航空機の離陸を、管制官は許可しない・・・。コロニアの「教皇」シェーファーの神の名を騙った硬軟巧みな統治ぶりは、まさに逆ユートピアそのものだ。
#220 2016.9.15 団地 2015 下高井戸シネマ   長女と観にいく。藤山直美と岸部一徳のさすがの演技を堪能した。最愛の息子を事故で失った初老の夫婦が、家業の老舗の漢方薬店を閉め、大阪の空き室だらけの団地に引っ越してくる。夫は裏山での薬草採集に、妻はスーパーでのレジのパートで整理のつかない気持ちを紛らわそうとする。団地住民の陰口に嫌気がさした夫は自宅に引きこもる。妻に殺されたのではないかと団地住民のうわさはふくらんでいく。コメディなのだが、どこかもの悲しい。終わらない平凡な日常を生きる人々の哀感がスクリーンに漂う。藤山直美が家事をこなすいくつものシーンがそれを象徴する。最後にSF的な大どんでん返しがあって、数秒のハッピーエンドがこの物語のすべてを回収する。
#219 2016.8.31 神様の思し召し 2016 新宿シネマカリテ   楽しい映画だった。高慢な腕利き外科医の息子が、神父になりたいと言い出す。腹黒い神父に洗脳されたに違いないと父親は確信して、それを阻止するために奔走。その神父に接近して一芝居を打つ。ところが、それがばれてしまい、埋め合わせに神父の教会再建工事を手伝う羽目になる。神父は前科者でエリート外科医とは正反対の人生を歩んできた。二人の心の交流はやがて外科医の心構えを変えさせていく。まさに「神様の思し召し」だ。最後は神父が車にはねられ、重体となって外科医の勤務する病院に担ぎ込まれる。手術の執刀は同僚に任せて、外科医は工事の仕上げに向かう。神父が助かったのかは示唆されるのみというニクイ終わり方。外科医の家に住み込みのペルー人のお手伝いさんがつけているエプロンに、ソ連国旗があしらわれていて笑えた
#218 2016.8.26 ケンとカズ 2016 ユーロスペース   ケンとカズは半グレとして、覚醒剤を密売して生きている。カズの事情からまとまった金が必要となり、系列のやくざを裏切ってもっと割のいい販売ルートにこっそり乗り換える。が、まもなく露見して「筋を通す」羽目に。やくざがプリンを食べながら笑顔でケンにそれを迫るコントラストが秀逸。迫力満点のバイオレンスシーンが始終出てくるが、それらよりよっぽど怖かった。すぐに手が出るカズは、実は母親から児童虐待にあっていたとの設定にもうなった。母親がカズを殴り、挙げ句の果てに顔を風呂の水に押しつける…。終映後に小路紘史監督とケン役のカトウシンスケさんの舞台あいさつがあってラッキー。せっかくなので監督に質問したら、監督の知人の知人の・・・に覚醒剤の密売人がいて、情報を仕入れたとのこと。
#217 2016.8.23 ニュースの真相 豪米 2015 TOHOシネマズシャンテ   再選を目指すブッシュ・ジュニアがベトナム戦争当時兵役逃れをしていたという軍歴詐称問題をCBSのニュース番組がすっぱ抜く。まるで小保方問題のように、直後からその証拠文書が偽造ではないかとの指摘がウェブ上をかけめぐる。たとえば、当時のタイプライターでは数字の肩にthをつける「肩文字」は打てなかったというのだ。主人公のやり手の女性プロデューサーは裏取りに奔走するが、確証が得られない。軍歴詐称問題が文書の真贋問題へと事の本質がすり替えられていく。これはまるで「情を通じて」の西山問題のようだ。彼女はウェブ上での誹謗中傷にさらされ、カメラクルーに追いかけ回され、非米活動委員会さながらの調査委員会に引っ張り出される。ついには解雇されてしまう。原題のTruthが胸に突きささった。その番組のアンカーマン役はロバート・レッドフォード。かっこよすぎる! 「質問しなくなったらこの国は終わりだ」と。どこぞの国のメディアはどうなのだ?
#216 2016.8.21 栄光のランナー/1936ベルリン 米独カナダ 2016 TOHOシネマズシャンテ   ベルリン五輪で陸上4冠(100m、200m,走り幅跳び、400mリレー)に輝いたジェシー・オーエンスのサクセス・ストーリー。ナチス政権下での五輪にアメリカが参加するか。それを決める委員会の票決は2票差だった。それでも参加を見送るように黒人政治家から求められるジェシーは深い葛藤の末、出場を決意する。走り幅跳びでジェシーに次いで2位になったドイツ選手ロングの部屋をジェシーが訪ねると、ロングはナチの真相を切々と暴露する。一方、ゲッベルス宣伝相と五輪を撮影していた映画監督リーフェンシュタールの確執も興味深い。そのゲッベルスに強請られて、アメリカは400mリレーに出場予定のユダヤ人選手をジェシーに代えた。帰国後、祝賀会場のホテルにジェシー夫妻が入ろうとすると、黒人は通用門からだと止められる。ヒーローでもこの扱いだったのだ。原題はRACE。もちろん、ダブルミーニング。もう少しひねりの効いた邦題を付けられなかったものか。
#215 2016.8.17 Amyエイミー 英米 2015 角川シネマ有楽町   天才ジャズシンガーのエイミー・ワインハウスのわずか27年の生涯を記録映像で生々しく描く。天は二物を与えずというが、そのたぐいまれな才能の一方、私生活は破天荒を極めた。ドラッグにアルコールでは体がもたない。セレブとなったエイミーをパパラッチが追いかけ回る。こんなにひどいものなのか。最後はベオグラードの屋外コンサートに泥酔状態で現われ、ろくに歌えないエイミーに、同情と怒りが交錯した。凡庸にまさる幸せはない、少欲知足が大事なんだと、映画でまた一つ人生を学んだ。
#214 2016.8.15 奇跡の教室 2014 角川シネマ新宿   妻と長女が観にいくというのでついていく。レオン・ブルム(人民戦線内閣の首相だ!)高校の落ちこぼれクラスをおばさん先生が粘り強く指導して、全国歴史コンクール優勝へと導く。与えられたテーマはホロコーストだった。生徒たちは生存者へのインタビューを機に徐々に目の色が変わっていく。フランスでは学業不振の生徒の成績会議に、クラス代表として生徒も出席するのにはびっくりした。お祝いにエッフェル塔をバックに先生と生徒たちが、ケンタッキーフライドチキンをほおばっているシーンは笑えた。
#213 2016.8.13 シン・ゴジラ 日本 2016 TOHOシネマズ府中   2年前にみた「GODZILLA ゴジラ」より断然おもしろかった。主人公が政務の官房副長官という設定がマニアックにしびれる。想定外の事態の続発に現行法でどう対処するか。それをめぐる政権内の対立と苦悩が興味深く描かれる。どうせなら、法解釈をめぐって内閣法制局長官も登場させてほしかった。石原さとみ扮する日系3世の米国特使が「うちの国では大統領が決めるの。この国は?」ときかれて、閣議書が映し出されるシーンがある。だから憲法に緊急事態条項が必要なのだという議論に短絡されなければいいが。ゴジラは都心を壊しまくったが、やはりあの場所だけは足を向けなかったし、そこの住民の避難について政権が検討するシーンもなかった。
#212 2016.8.7 あなた、その川を渡らないで 韓国 2014 シネスイッチ銀座   妻に誘われて観にいく。98歳と89歳の老夫婦の日常を描く。#204「ふたりの桃源郷」の韓国版を観ているよう。韓国のドキュメンタリー映画で観客動員1位だという。これほど高齢になっても外出には仲よく手をつなぎ、雪が降ると子どものように雪合戦に興じる二人。かくあらねばと、老後への心の準備をさせられるようだった。おばあさんの誕生日に6人の子どもたちが集まり、賑やかな誕生日祝いがはじまる。ところが、途中できょうだいたちがけんかをはじめてしまう。寅さん映画を観ているようでおかしかった。キムチがうまそうなこと!
#211 2016.8.5 伽椰子のために 1984 DVD観賞 自宅にて 李恢成の同名の小説の映画化。ずっと観たかったのだがDVD化されてこなかった。ようやく今年になって『小栗康平コレクション』の第2巻に収録されたのを知って、入手した。1950年代末が舞台。原作小説にあるように、北朝鮮帰国運動についての描写に期待したが、そのシーンはほとんどない。在日朝鮮人サンジュニと伽椰子との陰影に富んだ重い恋愛映画だった。それでも、サンジュニの部屋には朝鮮半島の地図が貼ってあり、それが象徴するかように、登場する在日朝鮮人の台詞の端々に、境遇への苦悩と諦念がにじみ出ていた。島民6万人が虐殺された済州島四・三事件の生き残りの証言もある。本作でデビューした南果歩扮する伽椰子が、北海道なまりで語尾に「だから」をつけて話すのがすごくかわいい。
#210 2016.8.3 日本で一番悪い奴ら 2016 丸の内TOEI   北海道警刑事が功に焦って、自ら犯罪に手を染めて墜ちていく実話の映画化。主演の綾野剛が初々しい新人刑事時代から覚醒剤中毒となりはてるまでを体当たりで熱演している。国松孝次銃撃事件をきっかけに、全国の警察は拳銃(チャカ)狩りに血眼になる。普通の捜査に頼っていてはチャカなど出てくるはずがない。主人公はやくざと「兄弟」となり覚醒剤を売りさばいた金を原資に、チャカをやくざから買い付けて「数」を出して、道警のエースに成り上がる。ただ、その代償はあまりに大きかった。ミイラ取りがミイラになる。覚醒剤を静脈注射するとき血を逆流させるので注射器内のシリンジが血で染まる。それがきちんと描かれていた。また、中毒になるとのどが乾くので始終水を飲む。そのシーンも頻繁に出てくる。登場人物それぞれが抱えるどす黒い欲望が、人間のあさましさを教えてくれる。
#209 2016.7.26 トランボ 2015 TOHOシネマズシャンテ   満席の劇場というのは久しぶりだった。赤狩り時代のアメリカで、ハリウッドの最高給脚本家のトランボは下院非米活動委員会の聴聞会で証言を拒否して、実刑に服する。連邦最高裁のリベラル派判事が2人立て続けに死去したのが痛かった。出獄後もブラックリストに名前が載せられ、実名での仕事から干される。ペンネームで脚本を書きまくって家族を養っていく。入浴しながらタイプライターをたたき、アンフェタミン(覚せい剤)をウイスキーで流しこんで疲れを飛ばす無茶な仕事ぶりに家族も次第に離れていく。しかし、その実力は抜群で、やがてトランボをクレジットする勇気ある映画人が現れる。トランボが原案を書いた「ローマの休日」は、トランボ案では「王女と無骨者」というタイトルだったことを知る。ブラックリストに載るトランボに代わって、原案者としてクレジットされるイアン・マクレラン・ハンターの進言で、「ローマの休日」に改められた。これに限ってはハンターのセンスのほうがはるかによかった。闘う映画人の生涯を描いたこの映画が終わってすぐに、うしろの観客が「いい映画だった」と漏らしたのにうれしくなった。
#208 2016.7.24 帰ってきたヒトラー 2015 TOHOシネマズ新宿   ヒトラーが2014年のドイツにタイムスリップして、国中を旅して国民と対話する半ドキュメンタリー映画。各地で国民はおもしろがって「ヒトラー」と意見交換するが、その本音がにじむ内容に背筋が寒くなった。本当にヒトラーとその時代がみているような錯覚を覚えた。世界同時右傾化の現代を思い知らされることになる。笑ったのは、「ヒトラー」にアポなしに突撃取材された極右政党幹部が、議論で「ヒトラー」にやりこめられてしまうシーン。また、自分を選んだのは国民だと開き直る「ヒトラー」に、どこぞの国の権力者を思い浮かべてしまった。タイムスリップ映画はどうやって主人公を元の時代に戻すのが肝なのだが、フィクションと現実をうまくないまぜにして、戻さなかった。ただ、「カット!」でどんでん返しするラストは「蒲田行進曲」のパクリじゃないの。
#207 2016.7.18 あん 日独仏 2015 DVD観賞 国家論授業 前回映画館でみたときは、国立ハンセン病療養所に見学にいく前だった。見学したあとにみると、主人公の元ハンセン病患者の徳江を演じる樹木希林が台詞で述べる一言一言に、実に重い含意があることがわかる。「どら春」常連の女子中学生たちが学校の不満を徳江に言う。徳江は「自由なんだから」などと非現実的とも思えるアドバイスをするのだが、自由とは療養所に生涯閉じ込められたハンセン病にとって、至高の価値のあるものだったのだ。子どものころ収容され、療養所内で結婚し子宝を授かるが、堕胎を強制される。だが、70代半ばとなって「どら春」であんをつくり接客する徳江はいつも笑顔だ。これこそ「悟り」なのだろう。「どら春」店長の永瀬正敏もさすがの演技で共感をそそる。療養所内で徳江がつくったぜんざいを、涙をこらえて食べる永瀬の表情が秀逸だ。
#206 2016.7.16 シアター・プノンペン カンボジア 2014 岩波ホール   カンボジア版のニュー・シネマ・パラダイスだ。ポルポト政権以前の映画館が駐輪場になっている。映画を忘れられない館主がポト時代の処分を免れたフィルムをかけるが、肝心の最後のリールがみつからない。興味をもった主人公の女子学生が映写技術の手ほどきを受ける。映写機にフィルムを誤って装着すると発火すると注意される。ようやくみつかった最後のリールを彼女がセットしてかけるが、ラストシーンでフィルムがめらめらと燃えてしまう。「ニュー・シネマ・パラダイス」では映画館が全焼するが、この映画では無事に消し止められる。そして最後のリールを撮り直すが、その過程で登場人物がポト時代に犯した悪行が暴かれていく。そうしなければ生き残れなかったのだ。ポト時代には肥料になるからと、死体が水田に浮いていた。エンドロールでは、ポト時代に粛清された映画人や俳優たちの写真と氏名が「追悼」として映し出される。悪魔の政権という形容すら凡庸すぎると痛感した。
#205 2016.6.12 マイケル・ムーアの世界侵略のススメ 2015 角川シネマ新宿   長女がおもしろそうというのでいっしょに観にいく。アメリカがいかに「後進国」であるかをムーアお得意のブラックジョークたっぷりに描いてみせ、笑わせてくれる。フランスの小学校のレストランのフルコースを思わせる給食に対して、ファストフードそのままのアメリカの給食。ふんだんに有給休暇がとれるイタリア人夫妻がムーアに、アメリカでは有給休暇はゼロだと聞かされたときの唖然とした表情。解放感にあふれ看守による虐待などありえないノルウェーの刑務所。お金をもらってもアメリカには住まないと断言するアイスランドの女性政治家。それにしても、ドラッグを合法化してドラッグ中毒者を激減させたポルトガルにはびっくりした。ここでは覚醒剤も合法なのだ。
#204 2016.5.22 ふたりの桃源郷 2016 ポレポレ東中野   妻に誘われて観にいく。劇場はほぼ満席。すると、「映画館鑑賞素人」もいて、上映中に平気で私語をする。家でテレビをみているんじゃないんだから、静かにしろ! 名作が台無しだと腹が立つことしきり。60歳を過ぎて、山口県の山里での自給自足の暮らしを再開した夫妻の4半世紀を記録したドキュメンタリー。二人が90歳代の天寿を全うするまでをピアノやギターの調べに合わせて美しく映していく。隣席の妻は泣き通しだった。私たちも50代半ば。老いる現実をつきつけられる。体調を崩して老人ホームに入った夫が「1日中テレビばかりみていれば、ぼける」といって、山里通いを再開したのが含蓄深かった。とげとげしいこともあるが、能動的に生きられるいまが貴重なのだと思い直す。
#203 2016.5.4 風の波紋 2016 高田世界館   帰省の折りに長女と観にいく。日本最古級の105年の歴史を誇る高田世界館。正月のここでの餅つきに参加して、今度帰省したら映画を観ようと思っていたのが実現する。#202の宇宙開発とは対照的な映画だった。新潟県十日町市の雪深い山里で、自然とたくましく共生する人びとを活写したドキュメンタリー。協力し合って、藁葺き屋根を葺いたり、2011年の長野県北部地震で傾いた家を修理したり。完工記念にその家にみんなを招いての宴会が大いに盛り上がる。一方、飼っていた山羊をあやめて、その肉や内臓を鍋にしてみんなで食べるシーンもある。「いいやつでさ、〔あやめられることも勘づかずに〕寄ってくるんだよ」と「故人」を偲びながら。人が生きるということはこういうことなんだと厳粛な気持ちになる。
#202 2016.5.2-5.3 ガガーリン 世界を変えた108分 ロシア 2013 DVD鑑賞 自宅で 「地球は青かった」との名台詞を吐いたとされるガガーリン。しかし、実際はそんなロマンチックな宇宙飛行ではなかった。当時のソ連の科学の粋を集めた壮大な宇宙実験。3000人の候補者の中から選ばれたガガーリンは、無重力状態が人体にどのような影響を及ぼすか不明のまま、妻と娘二人を残して地球を飛び立つ。宇宙船は地球周回軌道に無事に入るが、そこから離脱しなければ地球に戻れない。逆推進に失敗すれば永遠に軌道を回り続けるところだった。帰還後にガガーリンは大佐に昇進する。その後重圧の中、自分を見失っていくと最後に字幕に流れる。その様子も観てみたかった。
#201 2016.4.30 スポットライト 世紀のスクープ 2015 TOHOシネマズ新宿   長女と観にいく。満席だった。展開が早くてだれがだれか付いていけずにちょっといらいらしたが、サブタイトル「世紀のスクープ」に偽りはない。幼児に対する神父の性的虐待を隠し続ける教会、それに加担して甘い汁を吸っている弁護士と、この構造を暴こうとする地元紙『ボストン・グローブ』の記者たちの渡り合いを、アクセントをきかせて見せていく。日本では想像できないほどに、教会が地域に深く根を下ろしていることを知る。虐待を働いた神父は教区を通常より短い期間で異動させられる。各神父の異動期間を調べていけば「容疑者」が浮かび上がってくる。記者たちが新聞社の地下倉庫で神父たちの人事記録を調べているシーンに「おれにもやらせてくれ!」と血が騒いだ。
#200 2016.4.22 ウォーターボーイズ 2001 DVD鑑賞 自宅で 妻が職場から借りてきて、夕食時に観る。おもしろかった! 男子高水泳部が女子高のプールで文化祭の演し物としてシンクロナイズド・スイミングを披露するまでの青春群像を、さわやかに描く。そういえば日本には男子の新体操というのもある。女性シンガーが「ぼくは」と歌ったのが、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」だ。既成概念を打ち破るとき、イノベーションが起こる!
#199 2016.3.3 妻への家路 中国 2014 DVD観賞 ゼミ有志と 映画館の迫力ある大画面で観たかった。みごとな映像美とカメラワーク。文革で右派分子として収容所に送られた夫が、文革後名誉回復されて20年ぶりに妻の元に帰ってくる。しかし、妻は心因性の記憶喪失に侵され、夫を認識できない。夫はあらゆる手段を用いて、妻の記憶を取り戻そうとするがすべて徒労に終わる。一方、夫妻の子ども丹々は文革期の洗脳で、3歳で別れた父の写真をすべて切り抜き、捨てていた。「5日に帰る」との夫の手紙を頼りに、毎月5日に夫の名前を書いたプラカードをもって駅に迎えにいく妻。ラストは雪の中、妻の横に夫が自分の名前が書かれたプラカードをもって、二人で来るはずもない「夫」を駅で待つシーンだ。政治の罪深さを深く印象づけられた。
#198 2016.2.6 ヤクザと憲法 2016 ポレポレ東中野   長女と観にいく。おもしろかった! ヤクザの日常生活を描いた東海テレビの勇気あるドキュメンタリー。だれも好きでヤクザになるわけではない。居場所を失って最後に行き着くのだ。暴対法施行以降、「反社会的勢力」は銀行口座をつくれない、保険に入れない、子どもは幼稚園の入園を拒否されるなどなどの人権侵害を受けている。「だったらヤクザをやめれば」との問いかけに、懲役22年(!)を勤め上げたヤクザの親分が「じゃあだれが受け入れてくれるのか」と答えるラストが重い。ヤクザの事務所に、「テレビの前のソファに寝ころぶな」との貼り紙があったのに笑ってしまった。
#197 2016.1.29 サウルの息子 ハンガリー 2015 新宿シネマカリテ   絶滅収容所でユダヤ人は「部品」とよばれていた。移送されてきた「部品」を「スープがさめるぞ」などと「消毒室」なるガス室へ急がせ、死体を焼却炉に運んで燃やし、遺灰を川に捨てる。一連の作業を「ゾンダーコマンド」とよばれるユダヤ人にさせていた。彼らが「schneller(もっと早く)!」とせかされ、遺体を引きずって運ぶシーンには心が凍る。そして、彼らもやがて殺される。政治が道を誤ればこんなことまで平然とさせてしまうのだ。「ゾンダーコマンド」が主人公のこの映画で、主人公サウルは決して笑わない。ラストシーンで「息子」をみてようやくゆっくりと笑う。「部品」から人間に戻る一瞬。だが、数分後に射殺されてしまう。
#196 2016.1.19 広河隆一 人間の戦場 2015 新宿K’s cinema   フォトジャーナリスト・広河隆一の半生を描く。なんてすごい人なんだ。1982年のレバノン内戦では虐殺が行われていた難民キャンプに命がけで潜入し、その凄惨な映像を世界に配信した。チェルノブイリ原発事故でも現地入りし、被災した子どもたちを支援した。さらに福島原発事故では福島の子どもたちのために自ら借金をして、沖縄・久米島に保養施設「球美の里」を設立した。ここに保養に来る子どもたちの交通費・滞在費は無料である。報いを求めず行動する崇高さに敬服するばかり。一方で、実の娘も登場し「父が家にいるのは年に数回だった」と証言する。背伸びせず、できることを誠実にやっていこうと思った。
#195 2016.1.16 ザ・トゥルー・コスト 2015 渋谷アップリンク   長女と観にいく。ファストファッションとよばれる格安の衣料品が、いかに劣悪な労働環境の搾取工場でつくられているかを描いたドキュメンタリー。アメリカで売られているファストファッションのほとんどはバングラデシュ製だという。労働者の多くは女性だ。「ファストファッションは私たちの血でつくられている」との叫びが胸に突きささった。われわれは彼女たちの尊い血を身につけているのだ。帰り道の道玄坂にH&Mがあった。ウィンドウ越しにのぞくと、1着300円の服が売られていた。いったいいくらで働かせれば、こんな安い値付けができるのだ。怒りがこみあげてきた。
#194 2016.1.13 バレエボーイズ ノルウェー 2015 下高井戸シネマ   プロのバレエダンサーをひたむきに目指す男子中学生3人を追いかけたドキュメンタリー。発表会で最後に振り付けを忘れてしまい袖に下がったシーヴェルトは、進学かバレエかで悩みバレエ教室をやめてしまう。しかし、自分にはバレエしかないと思い直して、教室に復帰する。温かく迎える仲間たち。ルーカスはイギリスのエリートバレエ学校に合格する。親友二人のどちらに先に電話するか。ルーカスはきちんと理由を考えているところがいじらしい。映像の端々にノルウェーの豊かさがにじみ出ていた。
#193 2016.1.5 母と暮せば 2015 TOHOシネマズ府中   薄幸な未亡人を演じる吉永小百合のはまり役。夫は結核で亡くし、長男は戦死、そして次男は長崎原爆の犠牲になる。その次男・二宮和也が幽界の垣根を越えて母の前にしばしば現れる。復員局の役人・小林稔侍の左腕はなく、次男の恋人だった黒木華の婚約者の浅野忠信には片足がない。上映中、涙が乾くことはなかった。黒木華の清潔感あふれる好演にキネマ旬報助演女優賞は当然だ。あと、次男の部屋に貼られていたチャップリンのポスターは何の映画なのか、気になって仕方がなかった。
#192 2015.12.29 街の灯 1931 DVD鑑賞 自宅で 「チャップリンは風化しないんだ」と長女に「自慢」しながら観る。全米で封切られた1931年は満州事変の年。チャップリンは風化しないが、あの歴史的事実も風化させてはなるまい。
#191 2015.12.27 杉原千畝
スギハラチウネ
2015 TOHOシネマズ府中   長女と観にいく。もはやすっかり有名になった、リトアニア領事代理を務めた「日本のシンドラー」杉原千畝の半生を感動的に描く。ヴィザ発給以外の外交官・杉原の側面も興味深かった。杉原が卒業したハルピン学院の教えの一つが「報いを求めず」。「報い」という下心をもって行動してこなかったかと自分が恥ずかしくなる。多くのユダヤ人の命を救った杉原は、戦後彼らが建国したイスラエルをどう評価していたのか。
#190 2015.12.24 ア・フィルム・アバウト・コーヒー 2014 新宿シネマカリテ   スペシャルティ・コーヒーをめぐるドキュメンタリー。ブラジル以外ではコーヒー豆は手摘みで収穫されると知って驚く。些末なことにまでこだわるバリスタたち。職人はこうでなければとうなずく。研究者も同じだ。2013年に閉店した表参道の「喫茶大坊」の店主がコーヒーを淹れるシーンの静かなる迫力に見入る。研ぎ澄まされた一挙手一投足の動き。そして出されたコーヒーの美しさはまさにアートだ。
#189 2015.11.20 恋人たち 2015 テアトル新宿   みんな不条理で退屈な日常を生きている。それに自暴自棄になるなと全編を通してじんわり訴えかけてくる。主役の3人が全員無名の新人俳優というのを観たあとで知って、その演技力のすごさ、それを引き出した監督の手腕に感心する。主人公の一人アツシのやさしい同僚に左腕がない。ラスト近くでアツシがそのわけを訊くと、「おれ昔左翼で、皇居にロケットを飛ばそうとしたら、自分の腕を吹っ飛ばしてしまった」と笑いながら打ち明ける。もう一人の主人公・瞳子は「雅子さま」の大ファンで、そういう伏線だったのかと納得。アツシが東京の青空を指さして「よし!」という終わり方。映画館から外に出て真似してしまった!
#188 2015.11.7 こころざし
─舎密(せいみ) を愛した男─
2011 DVD観賞 自宅で 「日本薬学の父」と称される長井長義(1845-1929)の、徳島での幼少期から長崎留学、ドイツ留学を経て、せき止め薬のエフェドリンを発見する41歳(1885年)までの半生を描く。幼いときに母を病気で亡くしたことが長井の研究への情熱を支えていた。舎密とはオランダ語で化学を意味する“chemie”の当て字。その長井が覚せい剤であるメタンフェタミンを世界ではじめて合成するのは1893年である。徳島大学長井長義映像評伝実行委員会が企画製作した映画で、9月に徳島大学薬学部に伺った際にDVDをいただいた。
#187 2015.11.3 フル・モンティ 1997 DVD観賞 自宅で イギリス・シェフィールドが舞台。観るのは2回目。1度目は1998年10月26日。その年の3月末から在外研究のため同地で妻と0歳の長女と暮らしていた。妻の育児休暇が終わり職場復帰に伴う新生活立ち上げのため一時帰国した際だった。喜劇の背景に映し出されるシェフィールドの街並みがもつ独特の哀感に当時を追憶した。テーマは男性ストリップ。やはり人がやらないことをやらないとだめだな。
#186 2015.10.30-11.2 サウンド・オフ・ミュージック 1965 DVD観賞 自宅で 同映画製作から50年。高3の長女と観る。自分がテレビで観たのも高3のときだった。3時間近い長編で、テレビ上映されたときは相当カットされていたことをいまごろ気づく。オーストリアをこよなく愛するトラップ大佐が、オーストリアを併合したナチス・ドイツの鉤十字の国旗を引き裂くシーンがかっこいい。トラップ大佐とマリアが「告白」しあうシーンもわくわくする。
#185 2015.10.30-31 意志の勝利 1935 DVD鑑賞 自宅で ナチスのプロパガンダ映画。天孫降臨とばかりに、ヒトラーを乗せた飛行機が雲間から、党大会が行われるニュルンベルクの空港に着陸するシーンからはじまる。空港から宿泊先のホテルまで、沿道を埋め尽くした民衆の歓呼に、ヒトラーはオープンカーの助手席で立ったまま答える。疲れるだろうに。独裁者もたいへんだ。そして、満場がナチス式敬礼をする党大会でのヒトラーの観閲や演説。全体主義とは「美しい国」なりと訴える映像が、これでもかと迫ってくる。
#184 2015.10.24 1984 1956 DVD鑑賞 自宅で オーウェル『1984年』の初映画化で日本では劇場公開されていない。「ビッグブラザーがあなたを見ている」のポスターが街中にあふれる。これは比喩ではなく現実だった。それを甘くみた主人公がテレスクリーンのない部屋で恋人と逢瀬を重ねる。だが、それは鏡の裏に取り付けられていた。取り調べで、指を4本出されて、「党が5本だといえば5本だ」と洗脳される。その効果はてきめんで、ラストで主人公は心の底から「ビックブラザー万歳!」と叫ぶ。面従腹背はむしろ健全なのだと強く思った。
#183 2015.10.18 チャイルド44 2015 下高井戸シネマ   スターリン体制下末期のソ連を舞台にしたフィクション。少年が猟奇的に次々と殺されていく。被害少年は44人に。しかし、理想社会を実現した社会主義の下では、殺人は論理的にありえないことになっていた。唯一の例外は「資本主義の汚染」によるものだ。そうではない真相を知る主人公が妻とともに犯人をつきとめる。殺伐とした射殺や拷問、暴力シーンの連続で目を背けたくなったが、ラストでやっと心が和む。主人公はKGBの前身であるMGB(国家保安省)のエリート捜査官。求婚された女性はそれを断れない。性交中の妻の醒めた表情はそれを訴えていたのだ。
#182 2015.10.16 さらば友よ 1968 TOHOシネマズ府中   アラン・ドロンのかっこよさが炸裂する。「おれの目を見ろ」といって女性に迫り、キスできてしまうのは世界中でアラン・ドロンだけだろう。そんなドロンに気を取られながら観ていると、突如筋立てがどんでん返しして、前半ぼーと観ていたことを後悔する。ドロンといえば、太田裕美の名曲「赤いハイヒール」の1番に「アラン・ドロンとぼくを比べて」という歌詞があるのを思い出した。ドロンと比べられてはたまらない!
#181 2015.9.27 ADDICTION〜
今日一日を生きる君 〜(演劇)
「今日一日を生きる君」
プロジェクト
2015 ユーロライブ
(東京・渋谷)
  内谷正文の一人芝居。弟の覚せい剤中毒の様子を、自身の体験をもとに迫真の演技で再現する。覚せい剤は使用を断っても、数ヶ月から数年後にフラッシュバックといって、使用時と同じ幻覚・妄想にさいなまれる。その様も演じられる。そのあとのトークショーで講演したアーサー・ホーランド牧師が、「薬物依存症は決して治らない」と言っていたのも印象的だった。
#180 2015.9.24 モダン・タイムス 1936 DVD鑑賞 ゼミ授業として 毎年度授業でかけるのだが、いつも刑務所で脱獄を企んだギャングをやっつけるまで。久しぶりにラストまで観る。ポーレット・ゴダードはきれいだな。波止場で荷揚げ前のバナナを子どもたちに投げ与えているのをみつかって、追いかけられる。追っ手を見事にまいて、自身でバナナをむいて「ざまあみろ」とばかりにほおばるシーンが、たまらなくかっこいい。その眼光は社会の矛盾を射貫くかのように鋭い。
#179 2015.9.10 エデンの東 1955 TOHOシネマズ府中   ご存じジェームズ・ディーンの代表作。同じ列にすわっていたお客さんがラストシーンにおいおい泣いていたが、ちっとも悲しさがこみ上げてこなかった。聖書の素養がないとこの映画の魅力をよく理解できないようだ。ディーンが双子の兄の恋人と観覧車に乗ってキスするシーンがcool! 『下町の太陽』(1963)でも彼氏のいる倍賞千恵子が倍賞に熱を上げる勝呂誉と浅草花やしきで「浮気」デートをして、観覧車に乗るシーンがある。ここから着想を得たのかな。倍賞はキスはしなかったけど。
#178 2015.9.3 チャップリンからの贈り物 2014 YEBISU GARDEN CINEMA   チャップリンへのトリビュート映画。随所にチャップリン映画を思い起こさせるシーンが編み込まれている。チャップリンの柩が盗まれた実話をヒントに、人のよさそうな移民二人組がチャップリンの墓から柩を掘り出し、別の所に埋める。深夜に二人でつるはしとスコップで作業するのだが、二人とも素手だ。ほんとにやったらすぐに手の皮がむけて、作業ができなくなる。そして、100万ドルの身代金を要求する。奇想天外というには幼稚な発想が笑えた。あえなく御用となる。ラスト近くで、寛大な判決で娑婆に出てきた実行犯の一人が妻と一人娘とともにチャップリンの墓に謝罪と感謝に訪れる。墓地の並木道を三人で歩くさまは『モダンタイムス』のラストシーンだ。希望の未来へと歩んでゆく。
#177 2015.7.20 ジョバンニの島 2014 DVD鑑賞 国家論授業 観るのは2回目。宮沢賢治が『銀河鉄道の夜』の着想を得たのが、樺太旅行だったこと、それがこの映画のモチーフになっていることを、ラストシーンのせりふのやりとりで気づく。去年、はじめて観賞したときは見過ごしていた。樺太の雪道で倒れた佐和子先生と子どもたちを救ったのは韓国人家庭だった。なぜ韓国人が。国家の不条理をいやというほど感じさせる。
#176 2015.7.19 動物農場(演劇) 演劇企画「ある」 2015 かもめ座(東京・阿佐ヶ谷)   オーウェルの小説『動物農場』を10人に満たない俳優がどう演じるのだろうと興味津々だった。なるほどこういう描き方になるのか。原作にはないくわしい説明(たとえば、種豚と食用豚の違い)があって勉強になった。終演後のアフタートークに出させられて、とんだ赤っ恥!
#175 2015.7.16 マジェスティック 2002 DVD鑑賞 ゼミ授業として 10年ぶりにみる。非米活動委員会の公聴会で蛮勇をふるって思いの丈を述べたピーターが、自分と瓜二つの「ルーク」の故郷に戻る。そこで、「ルーク」は虫が好かないと公言していた義手の男が「よく帰った」とピーターと握手するシーンがいい。第2次大戦で「ルーク」は戦死し、その男は右腕を失ったのだ。映画館「マジェスティック」でのピーターのような心のこもった接客はうれしい。映画への心の高まりはこの瞬間からはじまるのだ。
#174 2015.7.10/11 君よ憤怒の河を渉れ 日本 1976 DVD観賞 自宅で 文革後の中国で大ヒットした高倉健主演の映画というので、妻と夕食をとりながらみる。高層階にあるホテルのレストランから窓ガラスを簡単に割って自殺できたり、車の運転しかできない健さんがいきなりセスナを操縦できたり、容疑者をピストルで蜂の巣にした検事と刑事に正当防衛が認められたり。「ありえねえ〜」と爆笑。ただ、最後の精神病院での薬による人間改造のシーンには、悪寒が走った。
#173 2015.7.10 赤線地帯 日本 1956 角川シネマ新宿   赤線地帯とよばれた「特殊飲食街」。売春防止法の成立は1956年5月だが、その直前の吉原で働く女性たちの群像を描く。「人類最古の仕事」で夫と坊やをかつかつで養う妻が、「ミルクも買えないでどこが文化国家だ」と叫ぶシーン、その結核の夫が安っぽいラーメン屋でラーメンをうまそうにすするシーン。そしてなんといっても、計算高く男から大金を掠め取る女を演じる若尾文子の美しさといったら!
#172 2015.6.24 グローリー 2014 立川シネマ・ワン   アメリカ南部の黒人差別は1964年の公民権法の成立で解決したわけではなかった。映画の舞台となったアラバマ州セルマでは、依然として黒人市民のうち有権者登録をされている者は、わずか2%にすぎなかった。洗礼を受けるために黒人の少女たちが集まった教会が爆破され、キング牧師率いる黒人の行進に賛同して、はるばるボストンからやってきた白人牧師がその夜、白人に撲殺される。今に至る人種差別、黒人蔑視の根深さをまざまざと思い知らされた。
#171 2015.6.18 あん 日仏独 2015 新宿武蔵野館   実に1996年まで隔離され続けた元ハンセン病患者を、樹木希林が諦観しきった穏やかさで演じる。彼女がつくる絶品のあんのおかげで、永瀬正敏が訳あり店長に扮するどら焼き屋「どら春」は繁盛する。が、やがて世間のハンセン病への無理解が客足を途絶えさせる。彼女は店を辞め、店長は「世間の風は冷たい」とこぼしながら酒に溺れる。そして、彼女の訃報を知る。すべてを飲み込んだ店長が、桜が満開の公園に屋台を出し「どら焼き、いかがですかー!」と野太い声で叫ぶラストが、万感胸に迫る。
#170 2015.6.2 ジェームス・ブラウン
最高の魂(ソウル)を持つ男
2014 角川シネマ有楽町   貧しさから才能を開花させ、全米トップのソウルミュージックシンガーにのぼりつめたジェームス・ブラウンの生涯を、『42』でも主演だったチャドウィック・ボーズマンが本物さながらの熱演で描く。ちょうど読んでいた山田太一(2013)『月日の残像』新潮社にも、アメリカで成功することの「すさまじさ」が書いてあった。想像を絶する重圧に絶えかね、家族や仕事仲間に当たり散らす。挙げ句の果てはドラッグに手を染める。「少欲知足」という仏教の戒めを思い出した。
#169 2015.5.28 ハーツ・アンド・マインズ
ベトナム戦争の真実
1974 新宿シネマカリテ   ベトナム戦争終結から40年の今年、国会では戦争法案が審議され、政権側のしどろもどろの答弁が続く。彼らにこそこの映画を観てほしい。多忙な首相には、米兵が街頭でベトナム人の頭を無造作に打ち抜き、そこから噴水にように血がほとばしり出るシーンだけでいい。形容する言葉がみつからない惨劇のウラでだれかが大儲けしていたのだ。
#168 2015.5.3 蒲田行進曲 日本 1982 DVD観賞 自宅で 当たり前だが、映画はスターだけでは成り立たない。スターを引き立てる「その他大勢」のいわゆる大部屋俳優がいるのだ。時代劇では斬られ役で顔さえろくに映らない。「大部屋にいると性根が腐る」とは本作品中のせりふである。ある大部屋俳優が、斬られて39段もの階段を転げ落ちる役に手を挙げた。下手をすれば命を落とす。本番までの彼の葛藤を、深作欣二監督が画面いっぱいに描く。チャップリンの『黄金狂時代』のラストシーン近くで船の階段を転げ落ちるシーンがあるが、あれも命がけだったのだと気づく。
#167 2015.5.1 パレードへようこそ 2014 シネスイッチ銀座   ラストシーンには涙が止まらなかった。渋谷区で「同性パートナーシップ証明書」を定めた条例が今年3月31日に可決された。イギリスではすでに1980年代半ばに、同性愛者が「カミングアウト」し、炭鉱労働者を支援する活動に立ち上がっていた。もちろん彼らは様々な差別や偏見にさらされるが、それを逆手にとって支援の輪を広げていく。小さなところからしか世の中は変わらない。しかし着実に変わっていくことに勇気をもらった。
#166 2015.4.23 グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜 2014 角川シネマ新宿   内戦のスーダンから孤児になった子どもたちが、1000キロ以上離れたケニヤの難民キャンプまで素足で歩いて逃げる。途中、「生きたい」といいながら自分の尿を飲むシーンが胸に突きささる。13年のキャンプ生活のあと、アメリカ移住が認められる。そこでも次々に苦労に見舞われる彼らを世話する、キャリー役のリース・ウィザースプーンの演技がいい。そして、ラストで感動的な「グッド・ライ」が実行される。
#165 2015.3.12 プライベート・ライアン 1998 DVD観賞 自宅で 冒頭のノルマンディー上陸の戦闘シーンから圧倒的だ。四肢が飛び散り、内臓がえぐり出され、海が真っ赤に染まる。大きな犠牲を払って上陸を果たした中隊長にいっそう不条理な作戦命令が下る。生死不明のライアン二等兵を探し出せと。中隊長はそれまでに二人の部下を失う。臨終直前の部下にモルヒネをもっと打ってくれとせがまれ、「打て」と命じる中隊長の苦悩。戦争の愚かさを、最初と最後にだけ出てくる星条旗と十字架がさらに印象強く訴える。
#164 2015.3.6 42 世界を変えた男 2013 DVD観賞 ゼミ有志と 戦後まで大リーガーには白人選手しかいなかった。初の黒人大リーガーとなったジャッキー・ロビンソン。露骨な差別、聞くに堪えないヤジを強靱な精神力で耐え抜き、プレーでそれらをねじ伏せていく。まさに背番号42の背中が無言で雄弁にアピールする。それを理解したチームメイトが試合中「みんな42の背番号をつければ違いがわからなくなるのに」とジャッキーに語るシーンが印象的。こうして、毎年4月15日は大リーグの全試合で全選手が背番号42をつけ、背番号42は大リーグ全球団の永久欠番となる。
#163 2015.2.23 地上(ここ)より永遠に 1953 TOHOシネマズ府中   ちょうどアカデミー賞発表の日にみた。真珠湾攻撃直前のハワイの米兵の腐敗ぶり。軍隊につきものの、酒とたばことギャンブル。そしていじめ。これらがなければ精神の平衡を保てない「軍」なる組織の根源的ゆがみが描かれる。素手でボクシングを戦うシーンがあるが、ボクシングの選手が素手で殴り合ったのだからあんな程度の傷ではすまない。そして真珠湾攻撃の朝を迎える。半信半疑の住民に対してラジオで「real attack」と連呼される。日常は突然非日常に変わるのだ。
#162 2015.2.17 ふしぎな岬の物語 日本 2014 下高井戸シネマ   吉永小百合の演技力に改めてすごいと思った。テルマエ・ロマエの阿部寛が五右衛門風呂で素っ裸になるのが可笑しい。杉田二郎・堀内孝雄はじめ「ブラザース5」の合奏も魅せる。そして、村治佳織のギターが作品を見事に包みあげている。帰宅して、ギターを猛練習した!

#161

2015.2.8 深夜食堂 日本 2014 新宿バルト9   午前0時から店を開ける「深夜食堂」。様々な人生を背負った客がやってくる。マスターの小林薫はじめ豪華キャストなのだが、深夜が舞台だけにしんみり仕上がっているところがにくい。みんな小さなプライドを糧に生きているんだなあと心に浸みいる。多部未華子がつくる卵焼き、うまそうだった
#160 2015.2.2 ドラフトデイ 2014 TOHOシネマズ六本木ヒルズ   ちょうどスーパーボウルの日にみた。NFLのドラフト会議の一日を描く。ドラフトの指名順位をトレードできたり、会議で各チームが選手を指名するのに与えられる制限時間が10分だったり(その間にも他チームからトレードの誘いがくる)、こんなにおもしろい仕組みをよく考え出したものだ。時間ぎりぎりになって、ゼネラル・マネージャーが“Deal!”と叫んで交渉成立。駆け引きのスリルを存分に堪能できた。
#159 2014.12.26 バンクーバーの朝日 日本 2014 新宿ピカデリー   時代は日華事変からアジア太平洋戦争の開戦にかけて。バンクーバーの日系人社会の希望を担った野球チーム「朝日」が、屈強なカナダ人チームを野村克也ばりの頭脳プレーの数々でなぎ倒していく。審判のカナダ人びいきの判定に、カナダ人観客から「Be fair!」(フェアにやれ)とのヤジが飛ぶ。これが逆の状況だったら、こんな直言は出ただろうかと感銘を覚えた。主人公の妹役の高畑充希が披露する英語の歌も見どころの一つ。ただ、歌詞の和訳を字幕で流してほしかった!
#158 2014.11.26 俺たちに明日はない 1967 TOHOシネマズ府中   名画の評価が高いが、人が虫けらのように殺されていく映画は好きになれない。ラストシーンで主人公の二人が蜂の巣にされるシーンには息を吞んだ。こんな結末が用意されていたとは。二人を追いかけていった警察が州境で引き返すシーンは笑えた。連邦国家とはこういうことか
#157 2014.11.20 マダム・マロリーと
魔 法のスパイス
インド/UAE/米 2014 新宿武蔵野館   楽しい映画だった。30年間ミシュランの一つ星だった南仏の田舎のレストランが、インド人の若き天才シェフの働きでたった1年で二つ星にのし上がる。天才シェフは三つ星を狙うパリの高級店に引き抜かれてすっかり有名人に。しかし心の空洞を拭えない彼は、最後は恋人のいる田舎の店に舞い戻る。そもそもミシュランは旅行者向け情報誌なのだから、これでいいのだ。原題がTHE HUNDRED-FOOT JOURNEY だと最後にわかってニヤリとした(ここにすべての含蓄があります)。
156 2014.11.12 グレース・オブ・モナコ 仏米ベルギー伊 2014 TOHOシネマズ府中   アルジェリア戦争の戦費がかさんで財政難に苦しむドゴールが、税金のかからないモナコに籍を置く仏企業に課税して仏に支払うことをモナコに強要する。主権国家とはいえモナコは仏にインフラを依存し軍隊ももたない。仏がモナコを併合することなど造作もない。ハリウッド女優からモナコ公妃に転じた主人公が、世界の首脳を集めた舞踏会で感動的なスピーチを行い危機を救う。「ローマの休日」のラストシーンが脳裏に浮かんだ。
155 2014.11.6 下町の太陽 日本 1963 神保町シアター   あの頃は女にとって結婚は「就職」だったという母の言葉を思い出した。下町と銀座、オフィスと鉄工所、若さと老いなど見事なコントラストが全編を覆う。ラスト近くで、勝呂誉に電車内で「つき合ってくれ、おれはまじめなんだ」と言い寄られ、クスッと笑ってドアから外を眺める倍賞千恵子がすごくかわいい。
154 2014.10.30 ウィークエンドはパリで 2013 シネスイッチ銀座   結婚30年記念のパリ旅行に出かけたイギリス人夫婦。過去の屈託をまぶしたとげとげしい会話、あるいはきわどいシーンの連続。他人事とは思えない。反面教師にしなければ。でも、食い逃げ、ホテル代金の踏み倒しはないよ。ラストシーンのダンスで救われた。
153 2014.10.22 めぐり逢わせのお弁当 インド 2013 新宿シネマカリテ   今週もまたインド絡みの映画になった。メールではなく手紙、パソコンではなく手書き書類、主人公の上の階に住むおばさんとは窓から声を掛けて会話する。現代のパラドクスに満ち、あのやもめと主人公はどうなるのか想像をかきたてるエンドが心に波紋を残す。開巻直後の鉄道シーンもいい。
152 2014.10.17 ミリオンダラーアーム 2014 TOHOシネマズ府中   野球経験のまったくないインドの二人の青年が、1年足らずの練習で大リーグからオファーを受けるまでを描く。主人公もさることながら脇役たちも光る。通訳のアミトや老スカウトのレイのせりふがいい。
151 2014.10.10 パークランド
 ケネディ暗殺、真実の4日間
2013 下高井戸シネマ   銃弾を受けたケネディが搬送されたパークランド病院で必死の治療を施す医師たち。ケネディがコルセットを着けていたことに驚く。これが命取りになったのだ。ケネディの遺体をワシントンに運ぶかどうかで、シークレットサービスと地元警察が縄張り争いをするのも興味深かった。
150 2014.8.1 GODZILLA ゴジラ 2014 TOHOシネマズ府中   迫力はあるし、メッセージ性もわかる。だがなにか心に響かない。いかにもカネをかけてるぞというショットの連続に、ちょっとしらけてしまうのか。
149 2014.7.21 人生案内 ソ連 1931 DVD鑑賞 国家論授業 院生時代に感激して2度観たこの映画を久しぶりに学生たちと。ソ連の単なるプロパガンダ映画に終わらない真実がこの映画にはある。浮浪児ムスターファの風貌は寅さんに似ていると笑ってしまった。
148 2014.7.6 街の灯 1931 三軒茶屋シネマ   ラストシーンで、心の奥底から突き上げてくる名状しがたい心の揺さぶり。これを感じるのはこの一本しかない! 7月20日閉館のこの名画座で観賞できてよかった。
7月18日のゼミで学生たちとまた観ました。
147 2014.7.6 アーティスト フランス 2011 三軒茶屋シネマ   どこかでみたシーンがけっこうあるなと思いながら見終わる。しばらくして、あれは「ニューシネマパラダイス」だ、「ショーシャンクの空に」だ、「アパートの鍵貸します」だ、「ライムライト」だ、と気づいた。名画の名場面集の集大成だったのだ。
146 2014.6.27 カンタ!ティモール 日本 2012 武蔵野公会堂   インドネシア国軍に非道の限りを尽くされても、「報復はしない」の背景には土着宗教的信念があったのか。当時もいまも国軍の片棒を日本が担いでいる。全編を彩るギターの調べ。もっとギターを練習します!
145 2014.5.21 テルマエ・ロマエⅡ 日本 2014 TOHOシネマズ府中   毒にも薬にもならない娯楽映画かと思ったら、とんでもない。立派な反戦映画だった。この時代にまさに警世の一本。
144 2014.4.14 動物農場 英国 1954 DVD鑑賞 国家論授業 毎年度初回授業の恒例行事。革命は常に裏切られる運命にあると学生たちとうなづき合う。
143 2014.3.13 ジョバンニの島 日本 2014 新宿ピカデリー   8.15を過ぎて色丹島に侵攻してきたソ連軍とその家族。共存を強いられる島民たち。同じ教室に壁一つを隔てて日ソの子どもたちが学ぶ。やがて交流が始まるが、2年後に島民たちは樺太送りに。オルガンを取り上げられた佐和子先生のギターが胸にしみる。ターニャもたまらなくかわいい!
142 2014.3.7 インディ・ジョーンズ
クリスタル・スカルの王国
2008 DVD鑑賞 ゼミ有志と 赤狩り時代の大学の雰囲気が少しわかったが、冒険物はやはりタイプじゃないと再確認した。最後にUFO飛ばすなよ。
141 2014.2.19 大統領の執事の涙 2013 新宿ピカデリー   1960年代でもこんなひどい黒人差別がまかり通っていたのか。ケネディは毎日103錠もの薬を服用していた。
140 2014.2.7 小さいおうち 日本 2013 TOHOシネマズ府中   奉公している一家の幸せを壊すまいと、奥様の手紙を届けなかったことを「原罪」として背負い続けて逝った女中。不倫話を上品に描く。
139 2014.1.23 ドラッグ・ウォー 毒戦 香港・中国 2012 新宿シネマカリテ   皆殺しのラストに度肝を抜かれたが、もっと目を見張ったのはそのあとの薬物を注射する中国の死刑シーン。
138 2014.1.15 マイヤーリング 1957 新宿シネマカリテ   「オードリー唯一の未公開映画」と鳴り物入りの宣伝だったが、たわいないメロドラマにしかみえなかった。
137 2013.12.26 ハンナ・アーレント ドイツ 2012 新宿シネマカリテ   時代といえばそれまでだが、主人公のすさまじいチェーンスモーカーぶり。圧巻であるラストの8分間の講義でいきなり吸い始めるとは。
136 2013.12.16 サンチャゴに雨が降る 仏・ブルガリア 1975 DVD鑑賞   政が軍を抑えられない悲劇。政軍関係の重要さを追体験できた気がする。
135 2013.11.22 気骨の判決(演劇) 日本 2013 紀伊國屋ホール   日常会話で「天皇陛下」という言葉が出ると、みな背筋を伸ばすのがおかしい。天下の紀伊國屋ホール、座席カバーが黄ばんでるぞ。
134 2013.10.30 ロシュフォールの恋人たち フランス 1967 下高井戸シネマ   いちばん肝心な伏線が最後の最後まで回収されずにはらはらする。背中のほくろが笑えた。
133 2013.10.3 タイピスト! フランス 2012 新宿シネマカリテ   ラブコメディは楽しい。フランスのキーボードはqwer順ではないことにびっくり!
132 2013.9.23 日独裁判官物語 日本 1999 DVD観賞 現代国家分析授業 日本で女性の最高裁長官が誕生するのはいつになるんだろう。
131 2013.9.19 私が愛した大統領 2012 TOHOシネマズシャンテ   出されたものを食べることが、相手への大きなメッセージになるんだ。
130 2013.9.11 メキシカン・スーツケース スペイン・メキシコ 2011 新宿シネマカリテ   メキシコがこんなに偉大な国だったとは。不明を恥じます。
129 2013.8.14 風立ちぬ 日本 2013 TOHOシネマズ府中   余命わずかな菜穂子が二郎に「来て」と誘うシーンに、胸がドキドキした。
128 2013.8.8 終戦のエンペラー 2012 TOHOシネマズ府中   結局、昭和天皇は偉かった、と言いたいのか
127 2013.7.27 猫の恩返し 日本 2002 録画観賞 自宅で さすがジブリ、みたあとほんわか温かい。主題歌もいい!
126 2013.7.22 グッドナイト&グッドラック 2005 DVD鑑賞 国家論授業 アメリカが自由の国だなんてウソっぱちだ
125 2013.7.21 立候補 日本 2013 ポレポレ東中野 泡沫候補という言葉は死語にすべきだ
124 2013.6.19 マリーゴールド・ホテルで
会いましょう
英米UAE 2011 ニュー八王子シネマ 人生に引退などない。「老い」の若さに感じ入る
123 2013.6.7 ヒッチコック 米国 2012 ニュー八王子シネマ サイコ上映中の劇場外で、漏れてくる音楽に合わせてヒッチが踊るシーンが可笑しい。
122 2013.6.2 男はつらいよ
 寅次郎夕焼け小焼け
日本 1976 DVD観賞 自宅で 志乃役の岡田嘉子が運命を語る台詞は、実は自分のことを言っている。
121 2013.5.19 東ベルリンから来た女 ドイツ 2012 下高井戸シネマ 東ドイツの一断面がよくわかる。身体検査をここまでやっていたのだ。
120 2013.5.1 リンカーン 米国 2012 新宿バルト9 戦闘でちぎれた多くの四肢が一輪車で運ばれる。したたる血を直視できない。
119 2013.4.19 船を編む 日本 2013 TOHOシネマズ府中 辞書の一語一語に編者の魂が宿っている。味読しなければ。
118 2013.4.15 動物農場 英国 1954 DVD観賞 国家論授業  
117 2013.3.6 世界にひとつのプレイブック 米国 2013 TOHOシネマズ府中
116 2013.3.1 ハート・オブ・ザ・ゲーム 米国 2006 DVD観賞 ゼミ有志と  
115 2013.2.14 人生の特等席 米国 2012 ニュー八王子シネマ ラストのクリント・イーストウッド「おれはバスで帰るか」がたまらなくかっこいい!
114 2013.1.29 東京家族 日本 2013 TOHOシネマズ府中
113 2013.1.21 十二人の怒れる男 米国 1957 DVD観賞 現代国家分析  
112 2012.12.24 レ・ミゼラブル 英国 2012 TOHOシネマズ府中
111 2012.11.30 黄金狂時代 米国 1925 DVD観賞 ゼミ授業として  
110 2012.11.1 あなたへ 日本 2012 TOHOシネマズ府中
109 2012.9.24 日独裁判官物語 日本 1999 DVD観賞 現代国家分析授業  
108 2012.8.5 The Lady アウンサンスーチー
 ひき裂かれた愛
仏英 2011 シネマスクエアとうきゅう
107 2012.7.23 シェルブールの雨傘 1964 DVD鑑賞 国家論授業  
106 2012.7.3/ 実録・私設銀座警察 日本 1973 ビデオ鑑賞 自宅で ヒロポンやめますか、人間やめますか
7.10/7.15
105 2012.5.31 幸せの教室 2011 TOHOシネマズ府中
104 2012.5.23 RAILWAYS 2 日本 2011 下高井戸シネマ
103 2012.4.19 マリリン7日間の恋 英米 2011 新宿バルト9
102 2012.4.16 動物農場 1954 DVD鑑賞 国家論授業  
101 2012.4.12 スーパー・チューズデー 2011 新宿ピカデリー
100 2012.4.4 ヘルプ 2011 TOHOシネマズ府中
99 2012.3.27 エリックを探して 英など 2009 DVD鑑賞 自宅で  
98 2012.3.22 マーガレット・サッチャー
 鉄の女の涙
イギリス 2011 TOHOシネマズ府中
97 2012.3.2 ゴジラ 日本 1954 DVD鑑賞 ゼミ有志とみる  
96 2012.2.23 さよならをもう一度 アメリカ 1961 TOHOシネマズ府中
95 2012.2.7 J・エドガー アメリカ 2011 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
94 2012.1.27 素晴らしき哉、人生! アメリカ 1946 TOHOシネマズ府中
93 2012.1.23 十二人の怒れる男 アメリカ 1957 DVD鑑賞 現代国家分析授業  
92 2012.1.13 ディーバ フランス 1981 TOHOシネマズ府中
91 2011.11.16 マネーボール アメリカ 2011 TOHOシネマズ府中
90 2011.10.20 第五福竜丸 日本 1959 DVD鑑賞 ゼミ授業として  
89 2011.10.5 ロンゲストヤード アメリカ 1975 TOHOシネマズ府中
88 2011.9.28 夜の大捜査線 アメリカ 1967 TOHOシネマズ府中
87 2011.9.26 日独裁判官物語 日本 1999 DVD鑑賞 現代国家分析授業  
86 2011.7.21 12人の優しい日本人 日本 1991 DVD鑑賞 ゼミ授業として  
85 2011.7.18 動物農場 イギリス 1954 DVD鑑賞 国家論授業として  
84 2011.7.1 ダーティハリー アメリカ 1971 TOHOシネマズ府中
83 2011.6.8 もし高校野球の女子マネージャーが
ドラッカーの『マネジメント』を
読んだら
日本 2011 TOHOシネマズ府中
82 2011.3.7 森崎書店の日々 日本 2010 下高井戸シネマ
81 2011.3.3 英国王のスピーチ 英/豪 2010 TOHOシネマズ府中
80 2011.2.9 ブラック・サンデー アメリカ 1977 TOHOシネマズ府中
79 2011.2.7 ショーシャンクの空に アメリカ 1994 有楽町みゆき座
78 2011.1.21 黄金狂時代 アメリカ 1925 DVD鑑賞 ゼミ授業として  
77 2011.1.19 アパートの鍵貸します アメリカ 1960 TOHOシネマズ府中    
76 2011.1.12 フォロー・ミー イギリス 1972 TOHOシネマズ府中
75 2010.12.29 友川かずき 花々の過失 日/仏 2010 K's Cinema
74 2010.12.26 いとこ同志 フランス 1959 下高井戸シネマ
73 2010.12.12 ゲゲゲの女房 日本 2010 TOHOシネマズ府中
72 2010.11.29 裏窓 アメリカ 1954 TOHOシネマズ府中
71 2010.10.6 眺めのいい部屋 イギリス 1986 TOHOシネマズ府中
70 2010.9.8 おかんの嫁入り 日本 2010 TOHOシネマズ府中
69 2010.7.7 BOX 袴田事件 命とは 日本 2010 ユーロスペース
68 2010.6.25 国会へ行こう! 日本 1993 ビデオ鑑賞 ゼミ授業として  
67 2010.6.23 ブリット アメリカ 1968 TOHOシネマズ府中
66 2010.6.3 Railways 日本 2010 TOHOシネマズ府中
65 2010.5.30 トゥルーマン・ショー アメリカ 1998 DVD鑑賞 自宅で  
64 2010.5.27 男と女 フランス 1966 TOHOシネマズ府中
63 2010.5.17 エル・スール 西/仏 1982 下高井戸シネマ
62 2010.4.28 雨に唄えば アメリカ 1952 TOHOシネマズ府中
61 2010.4.14 密約 日本 1978 新宿武蔵野館
60 2010.3.28 スミス都へ行く アメリカ 1939 DVD鑑賞 自宅で  
59 2010.3.26 マイレージ、マイライフ アメリカ 2009 新宿武蔵野館    
58 2010.3.17 ある日どこかで アメリカ 1980 TOHOシネマズ府中
57 2010.3.10 おとうと 日本 2009 TOHOシネマズ府中
56 2010.2.26 インビクタス アメリカ 2009 TOHOシネマズ府中
55 2010.1.19 十二人の怒れる男 アメリカ 1957 DVD鑑賞 国家論授業として  
54 2009.12.28 カティンの森 ポーランド 2007 岩波ホール
53 2009.12.24 黄金狂時代 アメリカ 1925 DVD鑑賞 教養演習の授業で  
52 2009.11.26 ブタのいた教室 日本 2008 DVD鑑賞 自宅で  
51 2009.11.15 1984 イギリス 1984 ビデオ鑑賞 自宅で  
50 2009.4.9 いのちの戦場 フランス 2007 ユーロスペース
49 2009.3.29 シェルブールの雨傘 フランス 1963 K's Cinema
48 2009.3.28 コマンダンテ 米/西 2003 DVD鑑賞 自宅で  
47 2009.3.27 ターミナル アメリカ 2004 DVD鑑賞 自宅で  
46 2009.3.19 おくりびと 日本 2008 TOHOシネマズ府中
45 2009.3.10 小三治 日本 2009 神保町シアター
44 2009.2.19 この自由な世界で 英伊独西 2007 下高井戸シネマ
43 2009.1.15 チェ 28歳の革命 米/仏/西 2008 TOHOシネマズ府中
42 2009.1.8 一ダースなら安くなる アメリカ 1950 DVD鑑賞 自宅で  
41 2008.12.27 実録・連合赤軍
 あさま山荘への道程
日本 2007 TOLLYWOOD
40 2008.12.24 動物農場 イギリス 1954 立川シネマ2
39 2008.5.21 犬の生活/サーカス アメリカ 1918/ K's Cinema
1928
38 2008.5.2 キッド/巴里の女性 アメリカ 1921/ K's Cinema
1923
37 2008.2.21 ぜんぶ、フィデルのせい フランス 2006 恵比寿ガーデンプレイス
36 2008.2.18 陰日向に咲く 日本 2008 調布パルコシネマ
35 2008.2.3 母べえ 日本 2007 TOHOシネマズ府中
34 2008.1.25 モダン・タイムス アメリカ 1936 新宿ガーデンシネマ
33 2008.1.6 街の灯 アメリカ 1931 新宿ガーデンシネマ
32 2007.12.29 黄金狂時代 アメリカ 1925 新宿ガーデンシネマ
31 2007.12.21 人間革命 日本 1973 DVD鑑賞 ガバナンス研究科授業で  
/2008.1.18
30 2007.8.16 十二人の怒れる男 アメリカ 1957 ビデオ鑑賞 自宅で  
29 2007.7.19 虹をつかむ男 南国奮闘編 日本 1997 ビデオ鑑賞 自宅で  
28 2007.3.23 虹をつかむ男 日本 1996 ビデオ鑑賞 自宅で  
27 2007.2.26 ルワンダの涙 英/独 2005 立川シネマ2
26 2007.2.15 不都合な真実 アメリカ 2006 TOHOシネマズ府中
25 2007.2.2 それでもボクはやってない 日本 2007 TOHOシネマズ府中
24 2007.1.19 真昼の決闘 アメリカ 1952 ビデオ鑑賞 二部ゼミ授業  
23 2006.5.18 グッドナイト&グッドラック アメリカ 2005 TOHOシネマズ府中
22 2006.2.10 ホテル・ルワンダ 英/伊/南ア 2004 立川
21 2006.1.18 ニューヨークの王様 イギリス 1957 ビデオ鑑賞 自宅にて  
20 2005.12.27 チャーリー イギリス 1993 ビデオ鑑賞 自宅にて  
19 2005.8.25 たそがれ清兵衛 日本 2002 ビデオ鑑賞 自宅にて  
18 2005.1.18 マジェスティック アメリカ 2001 ビデオ鑑賞 自宅にて  
17 2004.8.25 華氏911 アメリカ 2004 立川
16 2004.8.20 真昼の暗黒 日本 1956 ビデオ鑑賞 自宅にて  
15 2004.3.25 グッバイ・レーニン ドイツ 2003  恵比寿ガーデンプレイス 
14 2003.9.16 ローマの休日 アメリカ 1953 テアトルタイムズスクエア
13 1999.6.26 ライフ・イズ・ビューティフル イタリア 1998 銀座
12 1999.3.25 のど自慢 日本 1999 銀座
11 1999.2.23 マイ・スウィート・シェフィールド イギリス 1998 銀座
10 1998.12.1 うなぎ 日本 1997 シェフィールドSHOWROOM
9 1998.10.26 フルモンティ イギリス 1997 ビデオ鑑賞 自宅にて  
8 1997.10.17 うなぎ 日本 1997 府中グリーンプラザけやきホール
7 1997.1.20 ニクソン 1995 ビデオ鑑賞 一部ゼミ  
6 1997.1.8  大地と自由 英/西/独 1966 岩波ホール
5 1997.1.6 麗しのサブリナ 1954 ビデオ鑑賞 自宅にて  
4 1996.6.3 シンドラーのリスト 1993
3 1996.2.10 Shall We ダンス? 日本 1996 調布パルコシネマ
2 1995.10.30 病院で死ぬということ 日本 1993 ビデオ鑑賞 一部ゼミ授業  
1 1995.6.5 僕らはみんな生きている 日本 1992 ビデオ鑑賞 一部ゼミ授業